貿易 部会
貿易部会 伊藤 友久 部会長
こんにちは。貿易部会の伊藤です。貿易部会からは2008年のブラジルの貿易動向を中心に発表させていただきます。
開発商工省貿易局の統計データによりますとブラジルの2008年の輸出総額は1,979億4,200万ドル、輸入総額は1731億9,700万ドルと過去最高を記録しました。一方で貿易黒字は黄色の折れ線グラフの通り前年400億3,200万ドル比38.2%減の247億4,500万ドルとなり2年連続で減少しております。貿易黒字の大幅な減少理由としましては、第3四半期までの旺盛な内需による輸入の増加、金融危機の深刻化による10月以降の輸出の減少が挙げられます。特に12月はレアル高で輸出が伸び悩んだ3月に続き2008年で2番目の前年同月比減となりました。
2008年の輸出総額は前年比23.2%増の1,979億4200万ドルでしたが、カテゴリー別では一次産品が41.5%増の730億2,800万ドル、半製品が24.2%増の270億7,300万ドル、工業製品が10.4%増の926億8,300万ドルと全てのカテゴリーで最高記録を更新しました。表には記載されておりませんが数量ベースでは年前半のレアル高と後半の外需の低迷によりまして工業製品は9.8%減となっています。
一次産品の主要輸出品目別に見ますと、鉄鉱石が56.6%増の165億3,900万ドル、原油が52.2%増の135億5,600万ドル、大豆が63.2%増の109億5,200万ドル、鶏肉が38%増の58億2,200万ドルとなっております。8月ごろまでの旺盛な外需、価格高騰が影響して金額ベースでは軒並み増加しています。
またこれも表に出ていませんが数量ベースでは鉄鉱石では対世界では4.5%増の2億8,168万ドルと微増でしたが、特に10月以降の需要減により中国、イタリア、フランス向けなどは前年比減となりました。原油も対世界では2.8%増の微増でしたが、国別一位の米国向けは8.8%減となっています。一方米国企業の原油ターミナルがあるカリブ海のセントルシア向けは前年に続いて2位で161.4%増の大幅増です。また国別3位の中国も32.7%増で290万tとなっています。
輸出産品の第2位となっている原油につきましてもう少し触れさせていただきます。この表は2007年末の原油埋蔵量を表わしたものです。サウジアラビアの2640億バレルが1位、以下イラン、イラク、クウェートと中東各国が占めますけども、ブラジルはわずか126億バレルに過ぎません。
しかし最近ペトロブラスが所有するブラジル国内の確認済み埋蔵量は1,027億 バレルとして発表されました。これはプレ・サルと呼ばれる深海海底油田も加えたものですが、事実とするとクウェートと肩を並べるレベルになります。すなわ ちプレ・サルの生産については多額の設備投資を必要とするものの、この生産が実現すれば輸出産品としての原油はこれまで以上の伸びが期待されることになり ます。
3位の大豆の輸出額も危機が深刻化する以前の国際価格の影響が大きく、数量ベースでは3.2%増の2,450万tに留まっています。国別の輸出額では中国、スペイン、オランダ、タイの順に多くなっています。鶏肉も金額では58億ドルと38%伸びていますが、数量ベースでは8.7%増と前年よりも伸び率は落としております。ちなみに鶏肉の国別輸出額では日本、サウジアラビア、香港、ベネズエラ、アラブ首長国連邦が上位を占め、日本とサウジアラビアでそのシェアは32.5%を占めています。
次に半製品輸出にいきますと、鉄鋼半製品が71%増の40億200万ドル、パルプが29.5%増の39億100万ドル、砂糖が16.6%増の36億5,000万ドル、鋳鉄・銑鉄が68.5%増の31億4,500万ドルとなりました。数量ベースでは、上位品目は大半が微増にとどまっていますが、鉄鋼半製品は韓国、台湾、インドネシア向けなどが急増し、11.1%増となっています。
工業製品では世界第3位の航空機メーカーであるエンブラエル社が輸出する航空機が16.5%の54億9,500万ドルで1位となりました。輸出先は1位から米国、オーストラリア、英国、中国の順で、日本航空が購入したエンブラエル170の引渡し式も11月に実施され、現在は日本の空を飛んでいます。
2位以下の品目は乗用車が5.6%増、自動車部品が10.2%増、送受信機・同部品が8.4%増、エタノールが61.8%増と続き、数量ベースでは航空機とエタノール以外は減少しています。
乗用車の輸出額はアルゼンチン、ドイツ、メキシコ、ベネズエラの順に多くなっています。対メキシコでは自動車協定により2007年以降完全自由化されていますが、年前半のレアル高で前年比23.7%減となったほか、ベネズエラ向けも79%の大幅減となりました。自動車部品の輸出額はアルゼンチン、米国、メキシコの順に多くなっています。
エタノールの輸出額は各国向けに順調に伸びており、1位の米国は105.1%増で7億5,700万ドル、ついでオランダは82.4%増、ジャマイカは59.4%増、エルサルバドルは77.3%増となっています。エタノールということでちょっと脇にそれますと、米国は引き続きブラジル産エタノールにガロンあたり54セントの関税をかけています。
一方で通称CBIと言われるカリブ海沿岸イニシアチブによりカリブ海諸国からのエタノール輸入について域外にあるブラジルの原料を利用してもカリブ海諸国で含水エタノールの脱水処理加工をした場合、米国内消費の7%までは無税となります。ブラジルからジャマイカ、エルサルバドルなどへのエタノール輸出が伸びている背景はここにあります。2008年はこのCBIにより、バージン諸島への輸出も312.5%●●●●。
ブラジルからの輸出についてまとめますと、一つ、ブラジルは資源の輸出大国というイメージが大きいですが、実際には工業製品が総輸出に占めるシェアは5割近く、原油依存度の高いロシアなどに比べるとブラジルの輸出というのは非常に拡散されていると言えます。また金額ベースでは年前半の資源高を反映して通年でも大きな伸びが記録されたということになります。
次に輸入について見ていきます。2008年の輸入総額は前年比43.6%増の1,731億9,700万ドルでした。カテゴリー別では資本財が43%増の359億2,900万ドル、原料・中間財が40.2%増の832億7,700万ドル、消費財が40.5%増の225億2,500万ドルと全て4割以上の伸びを記録しました。
資本財では工業用設備・機械が49.4%増の109億9,000万ドル。事務・科学機械が28.8%増の70億8,500万ドル。工業用資本財部品が22.5%増の54億2,000万ドルとなり、いずれも3割以上かそれに近い伸びを記録しました。
ブラジル地理統計院によると2008年11月の季節調整済みの工業生産指数は前月比で6.2%減、前年同月比では5.2%減となっています。したがって輸送機部門を中心とする9月までの好調な生産活動が資本財の輸入増につながったと見られます。
消費財を見ますと依然として耐久消費財が伸びが非耐久消費財の伸びを上回っております。年後半は主に金融機関の融資への態度慎重化により低下しましたが、通年で見ると国民の購買力向上が示された年となりました。耐久消費財では乗用車が71.9%増、家庭用機械・装置57.7%増でした。乗用車の輸入相手国は1位からアルゼンチン、メキシコ、韓国、ドイツとなっています。
次に貿易の相手先について見てみたいと思います。まず輸出相手国は上位から米国、アルゼンチン、中国となっており、この順位は2005年から続いています。ただ米国は一桁台の伸び率にとどまっています。米国向けの輸出について言えば、この棒グラフの通り輸出額全体は毎年微増ではありますが増加しています。ただ伸び率は非常に低く結果として全体に占めるシェアは6年連続で低下しています。
ルーラ第一期政権開始の2003年 より脱米国市場が進む一方で、その他新興国への輸出が増えていることが分かります。脱米国市場が進んでいることは、米国のリセッションからブラジルが受け る影響の減少要因になっていますが、一方米国は依然輸出相手国の第一位であり、上位品目が原油、航空機など外貨獲得の要であることから、米国経済が一層失 速すればブラジル経済のリスクも高まると思います。
輸出国二位のアルゼンチンでは前年比22.1%増で自動車関連や携帯電話など工業製品を中心に好調な輸出を維持しています。2008年5月にはアルゼンチンとの自動車協定交渉が決着し2014年7月からの完成車の完全自由貿易が実施されることになっています。中国向けは大豆、原油、大豆油など輸出額の大幅増益、52.6%増を記録しました。
中国向け鉄鉱石の伸びは大豆等ソフトコモディティーに比べれば低く31.7%。ロシア向けでは牛肉が引き続き好調であるほか、タバコ、大豆油も大きく伸びて全体では24.4%増の46億5,300万ドルとなりました。しかし両国向けとも11月12月の輸出額は11月以前より大幅に減少しております。中南米域内ではメルコスールへの正式加盟が決まっているベネズエラがアルゼンチンに次いで多くなっています。
輸入相手国について見ますと中国、韓国、インド、台湾などとアジア勢の高い比率が目立ちます。中国からの輸入では2007年と同様、集積回路、パソコン部品、液晶画面などが上位を占めているほかコークス、携帯電話の急増も目立っております。韓国は59.6%増の54億1,200万ドルとなり、品目別では前年2位の自動車が前年比141.1%増の7億4,700万ドルで1位となりました。
2位以下の品目は電子部品、半導体、液晶画面と続いています。インドからの●●です。糸、繊維、医薬品などの輸入が伸び、64.3%増の35億6,400万ドルとなりました。対インド貿易では2004年1月のルーラ大統領初の公式訪問を契機に2005年以降急速に増加しています。現在メルコスール・インド間の特恵関税協定も発効に向けて各国で批准が進められています。
最後に、台湾からは半導体ほかディーゼル油、電子部品が大きく伸びました。輸入額3位のアルゼンチンからは二国間の自動車協定を活用した乗用車の輸入が最も多く、44.7%増の23億8,800万ドルとなっています。ブラジルが輸入に依存する数少ない食料である小麦は、数量ベースではアルゼンチンよりは24.8%減の423万tでしたが、金額ではアルゼンチン政府による輸出税の引き上げ等により8.4%増の12億6400万ドルとなりました。2009年は旱魃によるアルゼンチン産小麦の不作が確実となっておりまして、政府は現在ロシアからの輸入に向けた交渉をはじめています。
対日貿易。2008年の対日貿易は輸出が前年比41.5%増の61億1,500万ドル、輸入が47.7%増の68億700万ドルとなり、対日両国の貿易額は初の100億ドル突破となりました。ブラジルの貿易額に占める日本のシェアは輸出が3.1%、輸入が3.9%で、国別順位としては輸出が前年の8位から6位、輸入も6位から5位へと上昇しました。また2007年に入超に転じた対日貿易収支は2008年も6億9,200万ドルの赤字となっています。
対日輸出品目では鉄鉱石、鶏肉、アルミニウム、合金、コーヒーが上位を占めています。鉄鉱石は年前半の価格高騰で輸出額は69.3%の大幅増となりましたが、数量も14.6%増で3577万トンとなりました。鶏肉も年前半の大豆・とうもろこしなど飼料価格の高騰による価格の上昇で輸出額は201.4%増となっています。
先 ほどブラジルは工業製品の輸出も多いと申し上げましたが、こと対日輸出に関して言えばこの通り資源、食料がほとんどとなっています。輸入の上位品目は自動 車部品、自動車エンジン部品、乗用車、ベアリング・歯車など自動車関連を中心に順調に伸びています。年前半のレアル高に加え、危機の影響の顕著となった10月までの日系の二輪、四輪、部品メーカーの生産活動の拡大を反映していると思います。
2008年の対日貿易を総括すると米国格付け会社による投資資格の投資適格への引き上げ、日本移民百周年による注目の高まりなどにより、日本企業のブラジルへの関心が非常に高まった年と言えます。金融危機により2009年は1%台後半の低成長との見方が多くなっていますが、百周年で盛り上がった日伯間の経済関係の強化と機運が今後も継続することが期待されます。その意味で日伯貿易投資促進合同委員会の活動の重要性も高まっていると。
最後に2009年の見通しですが、まずは直近の事象について●●しなくてはいけません。2009年1月の貿易収支は欧米、アルゼンチン向け、特に自動車関連の輸出の落ち込みによって1月としては8年ぶりとなる貿易赤字5億1,800万ドルを記録しました。それに先立ち1月26日には、年初から前日までの収支が赤字となったことを受け、開発商工省は突如船積み前の輸入ライセンス必要品目の大幅拡大を発表しました。これは産業界などの強い反発もあり2日後には撤回されましたが、貿易赤字に対する政府の強いアレルギー反応が露呈した形となっています。
中央銀行のレポートでも2009年の貿易黒字が前年比43.3%減の140億ドルになると見込まれています。昨今の金融危機下では外需が低迷しており貿易収支を悪化させる一因となっていますが、ただその一方、金融危機下においてもブラジルの内需が落ちないことも貿易収支を悪化させる一因と見られています。
この表は2007年、各国の購買支出合計と、2002年から2007年で総消費支出がどれくらい伸びたかを示しているグラフです。ブラジルの消費支出は約8,000億ドルで、資源高により国が潤ったこともありますが、中国に次いで2位。支出の伸び率も150%超と他の新興国に比べて高くなっています。
我々日本人の貯蓄率に対する考えとブラジル人の貯蓄率に対する考えはかなり違い、日本人に比較してブラジル人の貯蓄率は相当低いと思われ、この消費支出の伸びと貯蓄率の低さというのが内需が比較的堅調という一因となっていると思われます。
2009年の見通しは、現在の不透明な世界動向の中で推測が非常に難しい状況ではありますが、建設的な面から考えればブラジルは世界の中でも比較的早い段階に経済が回復する国の一つになると期待しています。ブラジルの強みは、一つ、人口1億8,000万 人を抱え広大な領土を持ち国内市場が非常に大きいこと、二つ、ご承知の通り豊富な鉱物資源、食料資源、エネルギー資源を有していること、三つ、米国発のサ ブプライムローンの影響をブラジルの金融機関は受けておらずいまだに金融機関の体質は健全であること、そして最後に民族・宗教の対立のない、テロのない安 定した国であること。これらの強みが経済回復の大きな基盤になると確信します。
残 念ながらブラジルにおいて現状、貿易、投資等経済面で我々日系企業は欧米企業に遅れをとっていると言わざるをえません。しかしながらこの危機が我々にとり 巻き返しのチャンスであるとも考えています。日本とブラジルは補完関係にある国同士で、このチャンスの時期にブラジルにおける日本のプレゼンスを高め逆に ブラジルの日本におけるプレゼンスも高め、さらなる関係の強化、そしてその結果の実現を切に望んでおります。以上です。
司会:ありがとうございました。何かご質問ございますでしょうか。それでは次に参ります。ありがとうございました。建設不動産部会大滝部会長代理よろしくお願いいたします。
プレゼンテーション資料: 貿易 部会