金融部会 井上秀司 部会長 (三井住友海上)
皆さんこんにちは。金融部会会長を務めさせていただいております、三井住友海上の井上でございます。よろしくお願いいたします。恒例によりまして、まずは金融部会より、ブラジル経済動向、銀行業界動向、並びに保険業界動向に関して発表をさせていただきます。
私自身は今年ブラジルに赴任したばかりでございまして、皆様方諸先輩方の前でですね、ブラジル経済をお話しするというのは非常に憚られる状態ではあるんですけれども、役割でございますので何卒お許しいただければというふうに思います。余談ではございますが、そういう私がブラジルのことを知る上で、先程からちょっとお話が出ている現代ブラジル事典というのが非常に、大変役に立ちまして、他の本とちょっと違ってですね、コンパクトにそれぞれの項目がまとまっていまして、本当に参考になりました。これは平田さんからこう言ってくれと言われた訳ではなくてですね、本当にそう思っているので、ぜひ皆さん一人一冊お手元に置かれることを心からお勧めさせていただきたいと思います。
さて、ルセフ大統領の弾劾裁判、今仰った通りですけれども、まさに最終局面を迎えつつあります。全般の状況としては、大統領の罷免はですね、既に織り込み済みの状況というふうに言ってよいかもしれません。
現時点は国内外のブラジルに対するセンチメント、期待値が改善しているという状況で、世界的なリスクオンの傾向もあってですね、為替や株価が反応していますけれども、まあブラジル経済を取り巻くファンダメンタルズそのものはですね、まあインフレ率の低下傾向はありますけれども、大きな変化はなく、過去経済成長を牽引していた内需は引き続き低調。失業率も高くなっています。ブラジルの経済がですね、我々の期待通りに成長を取り戻せるかどうか、これはまさに来るべき新政権が緊縮財政路線を進めてですね、またそれに伴う各種改革を実行できるかどうかがポイントというふうに考える次第でございます。
テメル新大統領、まだ言ってはいけない訳ですが、新大統領を支える布陣としては、メイレレス財務相はじめ大変期待できる布陣だというふうに思っています。一方でですね、まあ一定の痛みを伴う改革ということもあって議会や市民の反発も多々あろうかと思いますし、これから大型の地方選挙も始まるということでございまして、まあ中々物事は簡単には進まないんだろうなというふうには思いますが、ぜひですね、強力に進めていっていただきたいなというふうに思う次第でございます。
皆様方におかれましては、弾劾裁判後に示されるであろう新政権のより具体的な政策、今まで話があったような政策が骨抜きになっていないかどうかと、そんなことも含めてですね、議会対策、結果を注視されて、各社の戦略に反映いただければというふうに考える次第でございます。
なお、今日の各種指標につきましては、日々数字が変化することから、便宜的に8月12日時点の数字を使わせていただいておりますので、よろしくお願いします。
それでは早速、最初のスライドをご覧ください。2016年上期を振り返ってみますと、引き続き政治・経済 ともに動きの激しい半年でした。主なトピックスとして4つ掲げています。
まずはペトロブラス社を巡る汚職捜査の進展です。2014年3月にスタートした本件は、ゼネコントップや現職上院議員の逮捕という政財界を巻き込んだ大スキャンダルに発展しており、6月末時点で警察・検察における捜査、いわゆるラバ・ジャット作戦は第30ステージまで進展しました。3月には連邦警察がルーラ元大統領を一時拘束するという事態まで進展しています。
2つ目はですね、政治的混乱に伴う財政再建の遅れの懸念を背景とした格付け機関によるブラジル信用格付けの格下げでございます。2月にS&P社がBB、ムーディーズ社もBa2とするなど、6月末時点ではフィッチを加えた主要格付け3社がブラジルのソブリン格付けをBBクラスの、いわゆる投資不適格な水準というふうにしております。
3つ目はですね、5月の上院本会議の可決におけるルセフ大統領の180日間の大統領職停止でございます。
4つ目はこれに関連しますが、弾劾手続きによるルセフ大統領の職務停止に伴いテメル副大統領が大統領代行に就任し、暫定政権が発足したことでございます。しかしながら、暫定政権発足から1カ月以内にペトロブラス社汚職関係で閣僚3名が辞任。また弾劾手続きをリードしてきたクーニャ下院議長も収賄関係容疑により議長職を辞任するなど、不安定な政局は引き続き継続しております。
次のスライドは、これらを受けて、直近の主要経済項目について2016年度の予測も含めてまとめてみました。2016年予測とあるのは、ブラジル中央銀行がとりまとめております、民間銀行ですとかエコノミスト予測の平均値でございます。
まずGDPの成長率です。2015年はここ数年の低成長傾向がさらに落ち込み、マイナス成長となりました。2016年もマイナス3.2%とマイナス成長が続くものと見込まれています。ちなみにこの予測では2017年の成長率は、直近19日の数字でございますが、プラス1.2%との数字が示されています。また、政府財務省からはプラス1.6%という数字が出ていることも皆様ご承知かと思われます。
貿易収支はですね、2014年には2000年以降初となる赤字となりましたが、2015年はレアルが対ドルで大きく下落したことが輸出を下支えした一方、国内景気が景気後退に陥り、輸入品の購入が手控えられたことを主因に黒字に転換しております。
株価を見ていただきますと、3年連続で年末の終値が前年を下回る状況が続いておりましたが、直近はご承知の通り58000レアル前後の株価となっております。
政策金利につきましては、ここ数年インフレ圧力に伴い引き上げられてきましたが、2016年は年初より14.25%が維持されております。インフレ率の低下がさらに進めば、年末には13.75に下がるというのが予測でございます。
インフレ率ですが、これは2015年末に10.67%と、2002年に12.53%を記録して以来の13年ぶりの高い水準となりましたが、2016年に入り大きな流れとしては低下傾向にございます。
為替レートは2015年末1ドル=3.9608レアルと大きくレアル安となりましたが、上期は暫定政権の発足や中銀総裁の交代がマーケットで好意的に捉えられるなど、レアル高の傾向にあります。
なお、明日26日にはですね、FRBのイェレン議長の講演が予定されているということで、その場での発言が注目されているところでございます。
それでは、個別に見てまいります。まずはGDP成長率のスライドをご覧ください。
第1四半期のGDP成長率は前年同期比マイナス5.4%と、8四半期連続のマイナス成長になりました。これまでのレアル安を背景に輸出は堅調で、前期比マイナス0.3%とマイナス幅が縮小するも、投資や国内消費がいまだに低調であり、景気浮揚までには今しばらく時間を要する模様です。
次のスライドは四半期ごとの数値を示しており、棒グラフがGDPの成長率、折れ線グラフが工業生産指数を示しております。棒グラフのGDP成長率と折れ線グラフの工業生産指数を見ると、ともに2013年後半から成長率が低下していることが分かります。
次のスライドは財政収支について示しております。2013年までは基礎的財政収支は黒字を維持しておりましたが、2014年よりマイナスに転じております。2016年も歳出削減に向けた動きはあるものの、景気低迷による税収の減少も影響するなど、引き続き赤字の予測となっております。また2017年もですね、赤字幅は縮小するものの、1390億レアルの赤字ということで政府が発表していることはご承知の通りかと思います。
次に政策金利とインフレ率の推移でございます。政策金利の推移は実線で示した通りでございまして、2015年には5回にわたり引き上げられ、14.25%となりました。2016年は14.25%を維持しております。インフレ率は点線で示しております。2015年はインフレ圧力が高まり、12月には10.67%に達しましたが、2016年は低下傾向にあり、6月末では8.84%というふうになっております。通年では7.31%という予測であり、引き続き政府目標の4.5%プラスマイナス1.5%のレンジは超えておりますが、2017年には5.12%に下がるとの直近予測となっております。
続いて為替の推移について見てまいります。まず対USドルですが、2002年の大統領選の過程で社会政策の拡充、対外債務支払い停止等の過激なスローガンを掲げていた労働者党のルーラ氏が勝利する可能性が高まったことを受けて、市場はレアル売りを進めて、一時は1ドル=4レアル台になりました。その後、ルーラ氏が大統領選挙に勝利すると、市場の予測に反し、財政規律と所得格差是正のバランスを重視した現実的な政策を打ち出したことにより、レアルは戻し、2011年7月には対ドルで最高値1.5391レアルをつけるまでレアル高が進展いたしました。
2011年後半からは徐々にレアル安に進み、米国の利上げ実施、資源価格の下落による新興国・資源国の通貨売り圧力、政治的不安要素の拡大、格下げ等が重なり、2015年後半にかけてレアル安の傾向が加速いたしました。しかしながら、ここにきて暫定政権の発足や中銀総裁の交代がマーケットで好意的に捉えられるという状況のほか、全世界的なリスクオンといったような状況もあり、現時点レアル高の傾向にあり、6月末時点では1ドル=3.2130レアルとなっております。この状況はその後も、一進一退はありますけれども、このレンジで継続しております。
続いて、円レアルでございます。対円では、レアル相場は2015年を通じて32.6%下落いたしました。2016年に入ってもその傾向は加速し、2月19日に最安値の28円をつけています。6月末時点では1レアル=32.11となっております。
次は、ブラジルの格付けの推移です。S&P社およびフィッチ社が2015年にそれぞれ投資不適格級であるBB+としていましたが、2016年2月にムーディーズ社も格下げを実施し、これにより6月末時点で主要格付け3社のブラジル格付けが、BBクラスの投資不適格の水準というふうになっております。
続きまして、CDS、クレジット・デフォルト・スワップの推移を示しております。これは、ご承知のように国の信用力のバロメーターとなる指標でございまして、まあ信用リスクに対する保険料率、マーケットの評価というふうに見ていただければというふうに思います。
ちなみにここに出ているベーシスポイントというのは、100ベーシスポイントが1%ということのようでございます。先程ご説明した格付けの低下とともにですね、CDSも高くなり、2015年9月には533.3ベーシスポイントというふうになりましたが、2016年に入りブラジル政治の先行き不透明感の和らぎなどから低下傾向にあり、6月末時点では317ベーシスポイントとなっております。また8月12日時点では257.6ということでさらに下がっているという状況です。
これはちょっと気になる指標ですけれども、失業率でございます。昨今の景気低迷による企業の雇用調整が本格化したということを受けて、失業率は昨年から急上昇しております。2016年6月末では11.3%ということで、景気低迷の深刻さがまあこの指標に顕著に表れているというふうに言えると思います。
続きまして、外国直接投資と外貨準備高の推移でございます。景気低迷の局面ながらも、外国直接投資は、レアル安等の要因もあるのでしょうが、比較的安定的に推移していることが分かります。長期的視点でブラジルへの投資が継続されているということが言えようかと思います。また、6月末時点の外貨準備高は約3767億ドルということで、2016年6月単月輸入の約30カ月分に相当するボリュームを確保しており、仮に急激なレアル安に直面しても十分にレアルの買い支えをできる水準にあるというふうに考えられます。
さて、次のスライドはですね、我々金融部会所属の各銀行様による2016年の予想を、各項目ごとに最大値と最小値というレンジの中で表記させていただきました。なお、8月5日を回答期限に集計しておりますので、その後の材料は織り込まれておりませんことにご留意いただければと思います。
まず、2016年のGDP成長率はマイナス2.2%からマイナス3.8%のレンジと見ています。2016年も2015年に引き続きマイナス成長を予測しているということです。なお、隣に上期とありますのは前回のシンポジウムで使わせていただいた予測値でございますので、まあその差ということをご参考までに表記させていただきました。
2016年末のインフレ率は6.91%から7.5%というふうに見ております。昨年比落ち着きは取り戻しつつあるものの、物価上昇圧力は引き続き強いものというふうに予測をしております。
為替レートにつきましては1ドル=3~3.4レアルということで報告を受けております。
年末の政策金利につきましては、13.25%から現状維持の14.25%の幅で見られています。
続いて次のスライドをご覧ください。ちょっと字が小さくて恐縮でございます。このスライドではですね、前スライドのご説明の2016年末の予測とともにいただいた各銀行様からのコメントを集約させていただいております。
本日のテーマとなっております課題と対策に絞り紹介させていただきますと、課題ではですね、高金利を要因とする当地における資金調達の難しさ、ブラジル・レアルのボラティリティの高さに対する対応といった、資金面での課題が挙げられるとともにですね、硬直的な労働市場の中で従業員削減の難しさ、あるいはそのコスト負担、一方でですね、今後の回復を見越した熟練度の高い労働者の確保の必要性と、まあこういったことが挙げられています。また、代金回収リスクの高まりに伴う資金繰り、キャッシュフローマネージメントの必要性等も挙げられております。
対策としてはですね、関連情報を幅広く収集し、知見を蓄えておくこと。具体的には日系企業間や同業種間における情報共有、ノウハウの共有が有効であると。また、ブラジルに関する意思決定は日本語・英語メディアの情報に左右されがちなので、地場における幅広い情報ソースを活用し、正確な状況認識を本社にしてもらうことが第一歩というようなコメントでございます。
私自身はですね、ブラジルに来る前6年間東南アジアにおりまして、まあ単純に日本の視点で言えばですね、例えば東南アジアとブラジルを比較した時に、どうしてもやっぱりアジアの強みとブラジルのリスクということで際立ってしまうんですけれども、やはり違う観点、視点で長期的な取り組みをすることの必要性というのをこちらに来て実感している次第で、皆さん仰ったようにですね、正確な状況認識を本社にしてもらうということの重要性を非常に感じるところでございます。
続きましてですね、銀行業界の動向について数字とともにお話させていただきたいと思います。
最初に貸出残高の推移でございます。毎年二桁ペースの増加率で伸びていた融資残高は、2015年は6.7%の伸び率にとどまりました。一番下の数字でございます。
経済成長の失速が見えていた2014年には法人向け貸出ペースは既に鈍化しておりましたが、個人消費を支えるために消費者ローンを中心に個人向け貸出は13.3%という伸び率を記録しました。しかしながら、2015年には高い金利による借入ニーズの減退、また金融機関の保守的な貸出姿勢なども相まって個人向け貸出も低調になり、全体では6.7%の伸びということになりました。2016年上期もこの傾向は続いておりまして、上期の伸び率は、一番下ですけれども、1%ということにとどまっております。
こちらはですね、新規与信に対する平均スプレッドの推移ということでございます。まあ銀行様としてのですね、実質的な金利というふうに見てもよいかもしれません。一番上の折れ線グラフが個人向け貸出、一番下の線が法人向けの貸出、真ん中の線が個人と法人の合算といったものでございます。かかるスプレッドの大きさというのは、まあブラジルの一つの特徴になっているんだというふうに思います。2014年まではですね、ブラジル国内におけるスプレッドは低下傾向にありました。2015年以降は 景況感の悪化からスプレッドの引き上げがなされているということが見て取れるというふうに思います。
次のスライドは不良債権比率でございます。こちらのグラフは90日超延滞の不良債権比率を示したグラフになっています。一番上の折れ線グラフが個人、一番下が法人、真ん中が合算と、同じでございます。2014年までは貸出残高が大きく伸びていたということもあり、延滞率は下方傾向にありました。
2015年に入ってからは保守的な与信および借入ニーズの減退など、貸出残高の伸びが緩やかになったことに加え、景気悪化を背景に個人、法人の延滞額も増加したことから、延滞率の上昇が見て取れます。なお最後の月にちょっとガクッと減っておりますけれども、これはまあ期末ということでですね、6月末ということで各社不良債権処理をした結果ということで、見かけの数字は減っているということです。
大手銀行の不良債権比率はその後も引き続き増加傾向にあるというふうに認識をしております。ただ、この影響はあるものの、大手銀行を中心に収益性は依然として高く、銀行部門は引き続き堅調に推移をしているというふうに見ております。ただし、不良債権比率の増加についてはまあ注視をしていく必要があるのかなというふうに思います。なお、各銀行の自己資本比率は相応に厚く確保されていることに加えて、ブラジル中銀により保守的に管理されていることから、金融問題によって経済が混乱するリスクというのはまあブラジルにおいては限定的というふうに見ております。
最後に保険業界動向についてお話をさせていただきます。
ブラジルの保険監督庁であるSUSEPの統計データによりますと、2016年1月~6月の保険料収入の伸びは2.4%と、二桁成長が続いていた2013年度までと比較すると、経済の低迷に連動して保険マーケットの成長も鈍化をしております。
次はですね、保険種目ごとの収入保険料のデータです。特に自動車保険につきまして、販売台数の減少等も受けてですね、あるいは競争の激化も踏まえて、保険料が減少しているという状況がございます。
次のスライドは保険種目ごとの損害率のデータでございます。全体では1.2%、損害率、いただいた保険料に対してお支払いする保険金の額ですけれども、が増加しているという状況ですが、内訳を見ると、やはりここもですね、自動車保険が2.7%のプラスというふうに悪化傾向がございます。競争の激化ととともに、まあこういう環境の下盗難事故も増えておりましてですね、まあそれが一つの大きな拡大の原因になっているというふうに見ております。皆様方も自動車の盗難につきましてはですね、引き続きご注意いただければというふうに思う次第です。
当地の保険業界はですね、保険会社数が多いということもありまして、競争が大変厳しく、保険事業の低い収益性を運用収益によってカバーしていると、まあこういう実態がございます。
最後に2016年のブラジル保険市場の成長見通しについてご報告させていただきます。
ブラジル保険会社連盟が2015年(●(※注)●2016年では?●)5月に公表した成長見通しでは、自動車保険、火災新種、運送といった損害保険の成長率は1.4%~5.2%。生命保険・傷害保険ではマイナスの1.8%からプラスの3.3%。全体では0.4%~4.6%というふうになっております。
今年度のインフレ率、先程お話した通り7.3%ということで言うと、まあここら辺を加味した実質的な成長のペースということでは、まあ実質的には若干縮小しているというふうに言ってもよろしいかもしれません。経済の不透明さ、自動車新車販売の低迷、個人消費の停滞ということで、保険業界を巡る環境も厳しくなっているという状況でございます。
中期的にはですね、ブラジルは引き続き有望な市場であることは間違いないというふうに考えておりますが、やはり先ほど申し上げた通りですね、他地域との単純な比較ではなくて、ブラジル独自の観点で長期的に戦略を立てていくことの必要性というのを改めて感じているところでございます。
以上で金融部会からの報告を終わります。ご清聴ありがとうございました。
司会
井上部会長、大変ありがとうございました。ちょうど時間ぴったりに終わりましたので、すいません、質問もあるかと思いますけれども、このまま次の貿易部会の発表に移りたいと思います。それでは今井重利部会長よりですね、発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。