金融部会 原 敬一 部会長
皆さんこんにちは。金融部会長の三井住友海上の原です。金融部会よりブラジル経済動向、銀行業界動向、保険業界動向について発表させていただきます。
ここ数カ月のブラジルをめぐる情勢は、外的には世界的な株安、原油価格の下落、中国経済の減速、内的には格付け機関による信用格付の格下げ、大統領の弾劾プロセス開始、レヴィ財務相の辞任、財政赤字、ペトロブラス汚職スキャンダルの拡大など、まさに内憂外患の真っただ中にあり、非常に予測が難しい状況におけるご説明であること、あらかじめよろしくお含み置きいただきたく、よろしくお願いいたします。なお、市場の各指数につきましては、日々変化するということで、本日の発表は便宜的に1週間前の2月18日という時点の体裁をとっておりますので、よろしくお願いいたします。
それでは早速、最初のスライド、3をご覧ください。2015年を振り返ってみますと、政治・経済ともに混乱した一年でした。主なトピックスとして5つ挙げております。
一つ目として、1月にルセフ大統領の2期目の政権がスタートいたしました。しかしながら、財政再建、経済回復と多くの難題に直面し、大統領支持率が低下。12月には正式に弾劾プロセスが開始となりました。
二つ目は、ペトロブラス社をめぐる汚職事件です。2014年3月にスタートした本件は、ゼネコントップや現職上院議員の逮捕という、政財界を巻き込む大スキャンダルに発展しています。
三つ目は、財政見通しの悪化や政局の混迷化を背景に、格付け機関によるブラジルの信用格付の格下げです。S&Pが9月に、またフィッチ社が12月にそれぞれ投資不適格級であるBB+としております。なお、先週2月17日にS&P社はさらに1段階の格下げを実施し、BBとし、また昨日ムーディーズ社も格下げを実施して投資不適格級のBa2としております。したがって、3大格付け会社がブラジルを投資不適格級という格付けに下げたことになります。
四つ目は、レアル通貨が史上最安値を更新したということです。2015年9月22日、まさに2002年の10月以来13年ぶりに1USドルが4レアルを突破しました。9月の24日には4.24レアル台後半まで到達し、最安値を更新いたしました。
五つ目として、レヴィ財務大臣の辞任が挙げられます。ルセフ大統領2期目がスタートした1月以降、財政改革・改善を推進してきたレヴィ財務大臣が12月18日に辞任いたしました。
次のスライド4では、これらを受けて2015年の主要経済項目についてまとめてみました。
まずGDPの成長率です。まだ確定値ではありませんが、ここ数年の低成長傾向がさらに落ち込み、2015年はマイナス3.7%とマイナス成長に落ち込むものと見らます。
貿易収支は、昨年2014年には2000年以降初となる赤字となりました。しかしながら、レアルが対ドルで大きく下落したことが輸出を下支えした一方、国内経済が最悪の景気後退に陥り、輸入品の購入が手控えられたということで、黒字に転換しております。
株価を見ていただきますと、3年連続で年末の終値が前年を下回る状況が続いております。
政策金利は、景気低迷にもかかわらずインフレ圧力が根強いため、2015年には5回にわたって引き上げられました。2015年末では14.25%と、2014年末から比べると2.5%上昇しています。なお、現在も年末同様14.25%です。
インフレ率は10.67%と、2002年の12.53%を記録して以来13年ぶりの高水準となりました。
為替レートは年末1USドル=3.9608レアルと、2014年末と比べて49%のレアル安ということになりました。
これを総括しますと、2015年は2014年に引続きブラジル経済が大きく減速し、主要マクロ経済指標が軒並み悪化したということが言えます。
それでは個別に各指標を見ていくこととします。まずGDP成長率です。ルーラ政権の8年間の平均成長率は4%でした。その後、2011年からの第1次ルセフ政権4年間の平均成長率は2.2%と大きく失速いたしました。ブラジル中銀が100行以上の金融機関の予測値を取りまとめるFOCUSに基づきますと、2015年の推定成長率は、先ほども申し上げました通りマイナス3.7%となっております。また2016年につきましてはマイナス3.0%と、2015年と同様マイナス成長を予測しています。
次のスライドは四半期ごとの数値を示しております。棒グラフがGDP成長率、折れ線グラフが工業生産指数を示しております。棒グラフのGDP成長率と折れ線グラフの工業生産指数を見るに、共に2013年後半から成長率が低下してきていることが分かります。
このスライドは財政収支について示してあります。2003年以降、2013年までは基礎的財政収支は黒字を維持しておりましたが、2014年よりマイナスに転じております。2015年は景気低迷による税収の減少も影響しております。
相関関係の強い政策金利とインフレ率の推移です。政策金利の推移は実線です。2015年には5回にわたり引き上げられ、現時点14.25%となっています。インフレ率は点線で示してあります。2015年に入りインフレ圧力は強まり、12月には10.67%に達しました。インフレ率上昇の背景には、燃料、公共料金等の値上げなどもあります。
為替の推移について見ていきます。まず対USドルですが、2002年の大統領選の過程で社会政策の拡充、対外債務支払い停止等の過激なスローガンを掲げていた労働者党のルーラ氏が勝利する可能性が高まったことを受けて、市場はレアル売りを進めて一時は1ドル=4レアルとなりました。その後、ルーラ氏が大統領選挙に勝利すると、市場の予想に反し、財政規律と所得格差是正のバランスを重視した現実的な政策を打ち出したことにより、レアルは戻して、2011年7月には対ドルで最高値1.5391レアルをつけるまでレアル高が進展いたしました。
2011年後半からは徐々にレアル安に進み、米国の利上げ実施、資源価格の下落による新興国・資源国の通貨売り圧力、政治的不安要素の拡大、中国株式の下落、先ほども申し上げたS&P、フィッチ社等の格下げが重なり、再びレアル安の傾向が加速しております。
対円では、レアル相場は2015年を通じて32.6%下落しました。2016年に入ってもその傾向は加速して、2月16日には最安値の28.02円をつけています。
次はブラジル格付けの推移です。スライド11では、冒頭に申しました通り、政府財政の見通しの悪化や政局の混迷化を背景にS&P社およびフィッチ社が2015年にそれぞれ投資不適格級であるBB+としております。繰り返しとなりますが、直近先週2月17日にはS&P社はさらに1段階格下げを実施し、BBとしました。また昨日ムーディーズも格下げをしたことは先ほども申し上げた通りです。
これによって主要格付け3社のブラジルの格付が投資不適格級となっております。ただ、ブラジルのエグゼクティブの中にはですね、BBBを持した期間というのがほんの数年で、実はブラジルというのはBとBBの国だったんだということを堂々と言う人もまだおりますので、そういう考え方も実は一方であるんじゃないかなと思っております。
このスライドでは、CDS、クレジット・デフォルト・スワップの推移を示してあります。これは国の信用力のバロメーターとなる指標で、信用リスクに対するリスク料とお考えください。ちなみにギリシャ危機の時はポイントが1000まで上がって、大体600が一つのアラームのメルクマールとなっています。先ほどご説明した格付の低下とともにCDSも上がってきて、昨年9月28日は533ポイントと、600に限りなく近づいてきているということが言えます。2016年以降も不透明感は払拭できないことから、高止まりする傾向と考えています。
労働市場については失業率と最低賃金推移をご覧になってください。失業率は2014年12月末には4.3%と歴史的な低水準を記録したと。一時は完全雇用の宣言を政府はしたんですが、昨今の景気低迷による企業の雇用調整が本格化したことを受けて失業率は急速に上昇しています。2015年12月は6.9%と、12月の実績としては2007年以来の高失業率を記録しています。ここでも景気低迷の深刻さが顕著に現れています。
このスライドは外国直接投資と外貨準備高です。景気低迷の局面ながらも、外国直接投資はレアル安の影響もあり、比較的安定的に推移しています。また、2015年末時点の外貨準備高は約3500億ドルと、輸入の33カ月分にも相当するボリュームを確保しています。したがって、急に過激なレアル安に直面したとしても、潤沢な外貨準備があるため、レアルの買い支えが可能な状況にあると思います。これはブラジルの強い一面だと思っています。
このスライドでは金融部会所属の各銀行による2016年の予測を、各項目ごとに最大値と最小値という形でレンジで表記してみました。ご参考までに左側の2015年を見ますと、2015年8月時点のシンポジウムで予測したメインシナリオとリスクシナリオを比べますと、これと実績を比べますと、ほとんど実績はリスクシナリオに貼りついたということが言えると思います。この2016年予測の集計値は2月5日時点ですので、その後の材料は織り込まれていないことをご留意ください。
まずGDP成長率は、マイナス2.5%からマイナス4%と見ています。2016年も2015年に引き続きマイナス成長を予測しています。インフレ率は6.5%から9%というレンジで見ています。食糧品の価格上昇など、物価上昇圧力は引き続き強いものと予測しております。
為替については、1USドル=4~4.5レアルを見ています。ブラジルを取巻く、マーケットにおける市場心理の悪化、政治的不安要素の拡大などからレアル安基調と見ています。
年末の政策金利については、13.25%から15.25%と見ています。インフレ圧力が引き続きあることから政策金利は高止まりを予測しています。
このスライド16では、前スライドでご説明の2016年の予測とともに各銀行からのコメントを集約しております。皆さんのご関心があると思われる、現在の景気低迷はいつ好転するのか、につきましては、ここで2017年説、2018年説、その他と3つの説に分かれてありまして、それぞれ記載しておりますが、いずれにしても非常にこの時点では予測が難しい状況にあります。
また、「景気低迷期だからこそ見えてくるビジネス機会」と本日の副題ともなっております、今の状況における日系企業にとってのビジネスチャンスとしては、レアル安によるブラジル企業の買収チャンス、輸出可能性を探るチャンス、またブラジル企業によるリストラを契機として事業や資産等について以前よりも良いものに巡りあえるチャンス、などを挙げさせていただいております。
続いて2015年の銀行業界についてご説明いたします。
毎年二桁のペースの増加で伸びていた融資残高は、2015年は6.6%の伸び率にとどまりました。経済成長の失速が見えていた2014年には法人向け貸出ペースは既に鈍化しておりましたが、個人消費を支えるために消費者ローンを中心に個人向け貸出は13.3%という伸び率を記録していました。しかしながら2015年には、高い金利による借入ニーズの減退、また金融機関の保守的な貸出姿勢等も相まって個人向け貸出も低調となり、全体では6.6%の伸び率となりました。
平均貸出金利の推移を示したものですが、2014年まではブラジル国内における貸出金利は低下局面にありましたが、2015年以降は 景況感の悪化から金利の引き上げが見て取れます。
不良債権比率ですが、これらのグラフは90日超延滞の不良債権比率を示したものです。一番上の折れ線グラフが個人向け貸出の延滞率、一番下のグラフが法人向け貸出の延滞率、真ん中のグラフは個人と法人の両者合算の延滞率を示しています。2014年までは貸出残高も大きく伸びていたこともあり、延滞率は下方傾向にありましたが、2015年に入ってからは保守的な与信および借入ニーズの減退などにより、貸出残高の伸びが緩やかになったことに加え、景気悪化を背景に個人・法人の延滞額も増加したことから、延滞率の上昇が見て取れます。
不良債権比率は増加傾向にありますが、大手銀行を中心に収益性は依然として高く、銀行部門は引き続き堅調に推移しています。また、各銀行の自己資本は相応に厚く確保されていることに加え、ブラジル中銀により保守的に管理されていることから、金融問題によって経済が混迷するリスクは限定的なものと考えています。ここの、金融に強いというのが、ブラジルのまた一つの特徴だと思います。
最後に2015年の保険業界についてご説明させていただきます。ブラジルの保険監督庁のSUSEPの統計データによりますと、2015年の保険料収入の伸び率は前年比で3.2%となりました。二桁成長が続いていた2013年度までと比較すると、204年、2015年と、経済成長が低迷する中、保険マーケットの成長も鈍化してきていると言えます。
続いてこのスライドは保険種目別の保険料収入のデータとなります。全種目とも成長が鈍化傾向にあることがお分かりいただけます。
このスライドは保険種目ごとの損害率のデータとなります。全体としては前年比0.2ポイントとわずかながら改善しておりますが、内訳を見ると損害保険は悪化し、生命保険・傷害保険は改善という状況になっています。損害保険では、主に企業を中心とした火災・新種保険において損害率が5ポイント以上悪化しています。また、運送保険の損害率は2ポイント改善してはいますが、65.7%と依然として高い水準にあります。ブラジルの保険業界は、保険会社数が非常に多いということも相まって競争が激しく、保険事業における低い収益性を運用収益でカバーするという実態にあります。
最後に今後の保険市場の将来性ですが、ブラジル経済の不透明さ、自動車新車販売の落ち込み、個人消費の停滞などで、保険業界をめぐる環境の先行きも厳しくなってきています。しかしながら、大手再保険会社のスイス・リーの調査によりますと、2014年度のブラジル国民一人当たりの保険料水準は日米の10分の1程度であることから、中長期的には貧困層の富裕化によって今後も一定の成長が見込まれています。
以上で金融部会の発表を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。
司会
原様ありがとうございました。何かご質問ございますでしょうか。せっかくの機会ですからどうぞご気軽に質問いただきたいと思います。よろしいでしょうか。なければちょっと私の方から一つ。景気回復がいつごろになるかというのは非常に関心の高いところで、まあ要因別に17年説、18年説、それ以降という形になっているんですけれども、やっぱりこういう時には、18年以降の最悪の事態を想定しながら17年という楽観的な状況に備えると、そういうことかなというふうに思いますけれども、日本人的な考え方でいくと一番真ん中の18年説が、数も多いし、ストーリー的にも成り立ちやすいんじゃないかなというふうに思うんですけど、金融部会の中ではこの説の中のどこが一番強いという状況だったんでしょうか。
回答
まさに三者三様で、大手3行とも分かれていたという、そんな感じですね。
司会
原様自身はどこが。
回答
私自身はですね、やっぱり国民の心理面が重要だと思います。だからやっぱり、国民が安全に消費ができるような国に早くなれればよろしいんじゃないかなと思いますし、そういう意味ではやはり政治、経済というよりも政治の果たす役割が非常に重要だと思っています。
司会
ありがとうございます。原様どうもありがとうございました。
原 金融部会長
質問が余った時間で、すみません、私事なんですが、5年間のサンパウロ勤務を終えまして3月末に帰国ということになりまして、次回のカマラの昼食会は先約があって欠席となりますので、カマラの公式行事という点では今日が最後になります。カマラでは監事を2年、理事を2年務めさせていただき、ここにいらっしゃる皆さまに大変お世話になりました。改めて、ありがとうございました。あと、後任の井上がですね、既に着任しておりますので、私と同様にご愛顧のほど何卒よろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。
司会
はい、ありがとうございました。それでは引き続きまして、貿易部会の発表を副部会長の住友商事の寺本様からお願いいたします。