基調講演「ブラジルと日本の経済関係の展望」
司会
中山会頭ありがとうございました。それでは早速ではございますが、武藤理事長に講演をお願いしたいと思います。質疑応答を含めまして約1時間を予定しております。それでは武藤様よろしくお願いいたします。
基調講演
武藤敏郎 大和総研理事長
ただいまご紹介に預かりました武藤でございます。中山会頭から過分なご紹介をいただいて大変恐縮に思っております。まず、日本商工会議所におきまして、このような機会を持てましたことに、大変光栄に思っております。心から感謝を申し上げます。
実は、私はブラジルに初めて参りましたので、見るもの聞くもの新鮮なことばかりでございますけれども、何分にもまだ初めてでございますので、ブラジルに対する理解もですね、本当にどこまで正確なのかというのは私自身分かりませんけども、それはお許しいただくとして、私なりのお話をさせていただきたいと思います。
BRICsという言葉が、今から7、8年前でしょうか、まあゴールドマンサックスのレポートによってですね、これからの世界がこのBRICsによって主導されていくであろうということが言われてから、日本ではこのBRICsという言葉がとにかく、ちょっとした経済の本を見るとBRICs、BRICsということでございます。
で私も、何となくBRICsということで思ってまいりましたけれども、ブラジルに来てですね、ロシアは行ったことはないんですが、まあインド、中国はちょくちょく行きますけれども、BRICsとして4つをひとまとめにするのが本当に正しい理解なのかどうかというふうに思い始めました。
まあよく言われるように、RICsの方はですね、RICsの方はまあ大国意識の全面に出た独特な国家なんですね。その象徴が、核保有国ということであります。それぞれまあ、政治体制、中国はご承知のように共産党一党支配であり、ロシアは民主化されましたけれどもまだ共産主義時代の尻尾が残っているようなところがありますし、インドはまあ世界最大の民主主義国家と言われます。13億の民が普通選挙の投票権を持っていると。
しかしインドにあるカーストですね、身分制度、これはかなり特殊なものでございましてですね、今後これがどのように、本当の意味で民主化されていくのかという課題が残っておるわけであります。
で、ブラジルはですね、その点非常にソフィスティケイトされた民主主義が完全に根付いておりますし、まあ大国、もちろん大国でありますけれども、RICsが持っているような、覇権主義というんでしょうかね、そういうものはあまりないように思うんですね。加えてですね、まあロシアは資源国の一つでありますけれども、多様性を持った資源国という意味ではまあダントツであります。
まあ中国、インドは資源国とは言い難い。その資源という意味は、別に鉱物資源ということではなくて、まあ食糧生産能力、あるいは環境資源、多様な生物が住んでいるといったような様々な意味での広義の資源大国という意味で、まあブラジルは圧倒的に最先端を走っているのではないかというふうに思います。
こちらに来る前に、ブラジリアでですね、財務省の高官と中央銀行の副総裁と意見交換をしてまいりましたけども、財政政策と金融政策に関するですね、これらの方々のスタンスというのは私には非常に自然に耳に入ってくる、極めてグローバルなスタンダードに基づいた政策運営をされているように思いました。
ブラジルはインフレに悩んだ歴史がありますので、金融政策の基本はインフレーションターゲッティングということでですね、4.5%プラスマイナス2%の範囲内にインフレ率をまあ管理するということであります。
また後ほどお話しますけれども、最近ちょっとこのインフレ懸念というものが増えてきている中で、引き締め政策をとるわけですけれども、マーケットがオープンになっていればそれが色々なサイドエフェクトを持つということで、あらゆる政策は必ず副作用があるわけであります。
財政出動をしようとすればまあ財政赤字という問題に悩むといったようなことでですね、今主要国はほとんどその問題で苦労、日夜苦労をしていると。でそのような同じ問題意識をですね、ブラジルの政策当局者がもっておられるということに、ある意味ですね、納得したといいますか、そういう印象を強く持ちました。
そういう意味でブラジルというのはこれから大変重要な世界経済のプレーヤーになっていくであろうということをまあ確信した次第でございます。
で日本はですね、ブラジルとはもちろん100年の交流の歴史があるわけですけども、またそれが大変重要な両国の信頼関係としてですね、あるわけでありまして、このような信頼関係を持った国は日本から見てブラジルだけだと思います。まあアメリカと日本はずっとこの戦後、安全保障を中心にですね、仲良くやって来たわけでございますけれども、何か信頼感というレベルがちょっと違うような気がするんですね。
そういう意味でブラジルに対して日本はもっともっと色んな関係を深めていくことができるのではないか、まだその点課題はあるのかなというふうに、そういう印象をもちました。まず最初の印象を申し上げた上でですね、早速その、日本とブラジルの経済関係についてお話をさせていただきます。まず1ページ目をお願いしたいと思います。
これが貿易関係でございます。まあこの10年ぐらいの間にですね、この輸出輸入が相当増えました。まあ2009年のリーマンショックによる悪影響は別としましてですね。それぞれ、日本からの輸入は2倍以上増加しておりますし、輸出はまあ3倍になっているということでございます。
ただこれは実額で順調に伸びておるんですけれども、ブラジルにとっての貿易の国別シェアを見ますとですね、実は日本からの輸出、まあ対日輸入ですね、ブラジルから見た輸入というのは実はシェアが減少しております。何故かといいますと、中国、韓国のシェアが上昇した分ですね、シェアダウンしているというまず現実があると思います。
次のページに参りまして今度は直接投資でございますが、直接投資は日本はですね、ブラジルの直接投資のうちの5%を占めておりまして、まあドイツ、フランス並みのレベルでございます。まあ一定のシェアを占めているというふうに見てよろしいかと思いますし、特にアジア諸国からはですね、断然日本の金額が大きいということでございます。
まあこれはブラジルの全体の直接投資の金額でございます。今や日本からこのブラジルに進出してきた企業、まあ300社を超えているようなそういう状況になっているというわけでございます。
今後の方向としてですね、これがさらに発展していくことはもう間違いないと思うわけでございますけれども、ポイントはですね、今まで日本はどちらかというとその資源大国ブラジルというイメージでまあ対応してきたわけでございますけれども、今日の日本の経済界ではブラジルが消費市場として巨大なものになっていること、グローバルな生産拠点として魅力のある国になっているというふうに理解が変わってきているというふうに思います。
ブラジルには深海油田でありますとか、飛行機産業でありますとか、バイオエネルギーとかですね、高度な技術というものをまあ誇っておる分野があります。ブラジルの持っている潜在的なその発展の可能性というのは、最初に申し上げたブラジルの基本的なインフラに加えてですね、そういう技術面でのシーズというものを十分持っているというふうに思っておりまして、日本とブラジルの関係を今後ますます発展させていかなければならないというふうに思うわけであります。まあこれは当然のことでありますけれども。
で、これからですね、ブラジルのこの高度成長に何らかの意味で参考になる、日本の成長、高度成長の歴史をですね、ちょっとご紹介してみたいと思います。
まず、これが1955年からの実質成長、および名目成長率の推移でございます。4つの時期に分けることができるというふうに思います。1970年代の中ごろまでは高度成長期でございました。名目成長率は20%あるいはそれを超えるようなそういうレベルに達しました。かなりの期間に亘ってですね、高度成長を続けていたわけでございます。
1945年、日本は第二次世界大戦の敗戦によってですね、ほとんど東京は焦土と化してしまったわけでございますけれども、それから23年後のこの1968年には、実は世界第2のGDPを達成したわけでございます。廃墟からの23年で日本の奇跡が起こったと、当時そのように言われました。
私が実は大蔵省に入りましたのが1966年なんですけれども、その頃のですね、この日本の勢いというのは、まさに今のブラジルのようなですね、そういう印象を持っていたわけでございます。
東京オリンピックが開かれましたのが1964年。1970年に大阪万博というのが開かれました。まあまもなくブラジルもオリンピックが開かれるわけでございますけれども、まあ万博もですね、何か手を上げるというようなお話があるようでございますけれども、今からちょうど40年ぐらい前でしょうか、に、日本はそういう経験をしたわけでございます。
その結果ですね、ちょっと次のページに行っていただきたいんですが、これがですね、日本のこれが失業率、これが日本の中間層の割合。1965年から70年ぐらいにかけては失業率が1%となりました。
1%の失業率というのはもうこれは奇跡的な数字でございまして、これより下がることはですね、摩擦的失業というのがありますから、まあ完全雇用が達成されていると、ゼロになることはまああり得ないわけでございますので、完全雇用が達成されているということだと思います。
ちょうとその時とほとんど同時期にですね、自分が中流の中の中に所属していると回答した人が6割に達しました。この中流の中の中という回答はですね、ちょっと妙に思われるかもしれませんけれども、まあ上流、中の上、中の中、中の下、下という5段階に分けた時のですね、真中なんですけれども、実はその、中の上とか中の下とかと答えた、まあ一口で言えば中間層ですね、これは90数%まで上った。この頃ですね、日本はアンケートをすると100人のうち90数人がですね、自分は中産階級に所属しているというふうにまあ答えたと言われておりまして、まあ1億総中産階級というような言葉がですね、流行りました。
前のちょっとまた8ページに戻っていただきまして、その後ですね、まあオイルショックを契機にですね、安定性長期ということで、成長率がレベルダウンいたしました。その後、プラザ合意が1985年なんですけども、円がドルに対して十分評価されていないということで、アメリカからの強い円切り上げ要請があってですね、その切り上げを行った結果輸出がスローダウンして、まあ内需拡大をしなければいけない、そのためには財政金融政策を緩和的刺激的にしなければいけないということで政策転換をした結果ですね、1985年から90年にかけてですね、いわゆるバブルが起こりました。
後ほどお話したいと思います。でバブルが崩壊したのが1990年。その後は急激に成長率が落ち込みまして、時々まあネガティブな成長と。リーマンショック後はちょっとこれは異例な姿でございますけれども、リーマンショック前のですね、このバブル崩壊後の姿、約15年間ですね、日本は極めて成長率が低い、まあほとんどデフレ的な状態ということになりまして、まあ失われた15年、まあ最近では、さらに失われておりますので、失われた20年といったような言葉がまあ流布されているわけでございます。
さて、これが概観でございますけれども、この高度成長の時期に話を戻しますと、この時はもう、もちろん所得もどんどん上がりましてですね、日本では1955年から65年までですね、約10年間のですね、所得倍増計画というのがありました。
所得を倍にするという、まあ池田隼人首相の所得倍増計画なんですけれども、これがですね、期間を待たずに達成するといったようなことが起こったわけであります。で、まあ良いことずくめのように申し上げましたけれども、実はこの高度成長にはですね、色々な落とし穴があったと、高度成長の負の側面をですね、申し上げる必要があるだろうというふうに思います。
ちょっとこの、次の、この表でございますけれども、このもう一つ次の表をお願いします。この表でございますけれども、これはですね、まず第一に、人口のですね、一次産業から三次産業への移動、まあ二次産業、三次産業への移動と言うべきかもしれませんけれども、それが起こったということでございます。
具体的には昭和25年、1950年には半分いた一次産業従事者、まあ農業・畜産業ですね、漁業、の人たちが、この1980年、30年ぐらいの間にですね、10%ちょっとまでシェアダウンしてきました。製造業はですね、まあ20%ぐらいから大体この30%を上回るレベルまで来ました。三次産業、サービス産業は30%から50%を超え、60%に近いレベルに増えてきたということでございます。
今日ではですね、第一次産業に所属する人は5%程度、サービス産業に所属する人は7割、製造業に所属する人が25%といったような状況になっております。ここでちょっと申し上げておきたいのはですね、実は第二次産業、製造業はもはや、40年前からですね、雇用者を吸収する産業ではなかったということでございます。
何故こんなことが起こったのかと言えば、このころから起こっている省エネ化、機械化投資によってですね、雇用をどうやって製造業は抑えるかということが課題となりましたので、雇用吸収力というのは当然のことながら無くなる。もう一つはですね、これは近年起こっていることなんですけれども、海外生産拠点というものを増やしてですね、国内生産拠点というものを海外に移してしまう、まあこれは日本では産業の空洞化ということですね。
空洞化とは中ががらんどうになってしまうという空洞化というような表現で言われたわけでございますけれども、これは当然雇用は海外で行うことになりますので、下がっていく原因になっているということでございます。
でこの結果ですね、何が起こったかというと、農村部の人口が激減いたしました。もちろん農村部の方が国土面積の過半を占めておりますので、大きな国土の中でですね、広い面積の人口過疎が起こった。で一方ですね、この製造業、第三次産業というのはどうしても都会でございますので、大都市を中心として過密化が起こったと。その結果、都市の下水が大変なことになる、教育設備が不足するといったようなことがまあ起こったわけでございます。
農村地域における高齢化というのは、農業の生産性が悪化するということを意味しますので、非効率な農業になっていると。農村に行くともう高齢者しか残っていないといったような状態、これが日本のTPP参加、今日においてですね、自由貿易に対して農村部から、この、わずかなシェアしかない人たちの反対意見が非常に強いということになっているわけでございます。
第二は、公害。今の問題はすなわち公害の発生に結びつきました。まあ都市近郊の生産工場においてですね、水質汚染、それから大気汚染といったような問題を生じました。
今日ではその、企業の公害問題というのは当然立地するときから課題になっておりますけれども、当時はですね、そういう認識はあまりありませんでしたので、工場立地の地域はですね、もう、スモッグっていう排出された窒素酸化物と硫黄酸化物ですね、これによって、まあ例えば呼吸器を病む人が増えるとか、そういう問題が出てきました。
工場廃水の中には水銀とかカドミウムとかいった有害物質があって、それで汚染された水産物を、海産物水産物をですね、食べた人たちがまた病気になるといったようなことが起こりました。で今日ではそういうことに対してはもう非常にセンシティブになっておりますので、さすがに日本でもですね、そんなことは起こっておりません。
製造業には非常に厳重な、厳格な公害防止技術を要請されておりますし、公害防止技術も非常に発達いたしました。でその結果ですね、ちょっと次のページに行きまして、これはですね、一次エネルギー消費原単位というものでございまして、どういうものかというと、一定量のGDPを生産するために原油をどのぐらい使うかという計算をしてですね、それを指数化したものがこういうものでございます。
日本はですね、元々アメリカと比べると原油消費量の少ない国でございましたけれども、今では大幅に削減してまいりました。アメリカはエネルギー多消費型社会でございますので高いわけでございますが、それでもまあ努力をしてきて今ではまあ半分以下になっているわけでございます。
でブラジルにつきましてはですね、ちょっと意外な数字と思われるかもしれませんけれども、上昇してきていて、エネルギー消費量はですね、GDP生産のために増えてきているわけでございますが、まあこれは高度成長期にはやむを得ない状況であります。
日本もかつてこれがだんだん増えてきて、それを省エネ技術によってここまで下げてきたということでございます。ただ、おそらくブラジルもですね、今後長い目で見れば、どうやったらその省エネになっていくのかということが重要な課題になるだろうというふうに思います。
さて、また前のバブルの話にまで戻っていきたいと思いますけれども、まあバブル期の前にですね、安定性長期があったということを申し上げました。その頃は何が起こったかというと、人口の高齢化が少しずつ始まりまして、それに対してコストを払わなきゃならなかったというのがまあ安定成長に至ったひとつの理由でありますが、もちろんオイルショックによって、先程の省エネ技術というものを開発するために様々な努力をしたというのも安定成長に向かっていったわけでございます。
で今度はバブルでございますが、この次のページでですね、バブルのお話に話を進めたいと思います。これがですね、バブルになった85年、プラザ合意の年に、この、90年、89年、これは株価は89年の12月がピークなんですけれども、地価は90年の3月末がピーク、3ヶ月違いでありますので、大体この頃を100と致しまして指数化いたしますとですね、85年には20ちょっとでしかなかったと。
90年にバブルが崩壊するとですね、90年代の後半にはここまで下がってきたということでございます。大体ざっと4倍以上に、わずかの期間にですね、5年間に4倍、資産価格が4倍になって、地価と株が4倍になって、崩壊とともに急落してですね、元に戻ったと。
未だにこの趨勢はですね、まあ若干の上下増はありますけれども、今日のレベルはですね、このレベルとほとんど変わっていないということでございます。でその間ですね、一体政策はどうだったのかというとですね、これは消費者物価なんですけども、このバブルの期間ですね、消費者物価は極めて安定的でありました。
インフレというものは消費者物価の上昇だというふうに定義するとですね、インフレはなかったというふうに我々は思っていたわけでございます。政策当局にいる人たちはですね。ところが、資産価格の上昇はインフレと同じ意味合いを持つんだということにですね、気がついたのはこの崩壊した後なんですね。
で、アメリカもですね、2007年ぐらいにその、住宅バブルが崩壊したわけでございますけれども、その住宅バブルの上昇と崩壊の過程はもうこれとそっくり同じ図式を描いているわけであります。我々はこの期間、日本の新聞にですね、バブルという言葉はほとんど見当たりません。むしろ、順調に成長する経済という日本の経済に対する期待感ばかりが出ていたわけでございます。
で、この頃のですね、新聞、雑誌を紐解くと、バブルという言葉の洪水状態になるんですね。要するに、人々はバブルの最中にバブルと気づかない。同じことがアメリカの住宅バブルで起こりました。2004、5年の頃、私が日銀にいた時にFEDの高官と、グリーンスパンさんとか副総裁と話をすると、私は日本の経験ではですね、年率20%上がる住宅価格というのはもうバブルに違いないということを申し上げると、それは全くの誤解だと。
日本は必要のない土地をですね、将来の値上がり期待で買いあさっていたじゃないかと。アメリカの住宅はですね、全部電気がついていると、要するに実需があるんだということですね、実需があって値段が上がるというのはこれは健全な経済であるということでした。
しかしそれから3年後に大暴落と。その結果、あのインベストメントバンクですね、ゴールドマンサックスから始まってですね、メリルリンチ、リーマンブラザーズまで、まあ5つあったわけでございますけども、今はゴールドマンサックスは再起いたしましたが、リーマンショック後は全部名前が変わってしまいました。
リーマンブラザーズはまあ、倒産ですね。メリルリンチはバンク・オブ・アメリカに買われてしまったといったようなことでですね、もう、あれほどアメリカのインベストメントバンクに続けと、世界中がですね、思っていたその姿が、誰も今はインベストメントバンクに続けなんて言う人はいなくなりました。
ビジネスモデルそのものが消えてしまったというような状況でございます。日本はこの期間にですね、ちょうどこの97年から98年にかけてですね、マネーセンターバンクというまあ非常に大きな、預金規模で20兆から30兆近いですね、金融機関が潰れました。
この時は大変なことが起こったわけでございますけれども、その後ですね、2000年に入ってからその償却をずーっと続けたわけでございますけども、トータルでですね、100兆円の不良資産をまあ償却したというふうに、まあ大雑把にいって理解されております。
100兆円の不良資産というと、GDPの20%、今500兆円弱でございますね、20%以上のですね、資産が消えてなくなってしまったということでございます。その結果ですね、またもう一つ申し上げておかなければならないのはですね、物価は極めて安定していたんですが、マネーサプライ、まあ資金量ですね、市場に出ている資金量は歴史的に極めて高い水準だったんです。
だからこれを見ると、市場に余剰の金が山ほど余っているから、資産へこの余剰資金が向かってですね、資産価格が上昇し、株価が上昇したというふうに思われますので、これをもっともっと注意深く見ておれば気がついたんじゃないかというふうに思います。
さすがにですね、この辺りから消費者物価も上がり始め、まあ日本のこんなに高い価格レベルがいつまで維持できるのかというようなことからですね、中央銀行は史上最低の2.5%という金利からですね、6%に、わずかの間に何度も何度も切り上げました。これがバブルの崩壊の引き金を引いたと言われております。
その後ですね、この経済の停滞とともに、中央銀行は、いまやゼロ、金利ゼロというのは、お金にはコストがないということを意味しますので、こんな馬鹿なことはちょっと考えられないですね。お金を借りてタダっていうような、まあ実際は0.1%ぐらいはついているんですけど、異常なマーケットに、マネーマーケットになったということでございます。 さて、こういうことで日本のデフレということになったわけでございますけれども、次のページにちょっと行っていただきたいと思います。
これは日本のデフレを端的に示すCPIの、1990年以降のデータでございます。これが1998年ごろにマイナスになりまして、まあ一時プラスになりましたがまた、この期間全体はですね、マイナス基調にあった。これは例の、原油価格の急上昇ですね、2008年に起こった100ドル超え、バレルあたり100ドルを超えたその影響でございまして、エネルギーを除けばゼロ以下でございましたので、実質的にはですね、日本の消費者物価は10年以上に亘ってですね、マイナス領域にあるということでございます。
まあ主要国はですね、皆この90年以降一斉に下がっては来ましたけれども、どこの国もですね、まあ2%程度を維持している。米国が今ちょっとデフレではないかと言われ始めたのは、米国がちょっと大幅に下がっていることでありますけれどもですね、しかし、まあ日本以外の国はですね、この間2%前後のレベルにあったのにもかかわらず、日本だけがですね、デフレ的な状況にあったというのは、これはまあ色々理由があるんですけれども、まあ日本の特殊な状況だったと思います。
さて、このことはですね、まことに日本経済を見る上でですね、まあ将来悲観的な状況を強調しているように見られるわけでございますけれども、ちょっと次のページに進みましてですね、これが今後の予測でございます。
大和総研、私どもが作った予測なんでございますけども、実はこの予測を作ったのはもう去年、12月に作ったわけですが、おとといですか、これは10年度じゃなくて10暦年のですね、12月までの成長率、1年間の成長率が発表されましたが、これが3.9になりました。予想以上に良かったということでございます。で、11年度はまあ1%程度の成長にいくであろうというふうに見ております。
全体が上振れしているとすればもうちょっと良いかもしれませんけども、しかしまあ1%台の前半にあるであろうというふうに思います。物価はですね、だんだんだんだんマイナスの幅を縮小していって、11年度にはまあほぼゼロに近づくというふうに思いますので、12年度にはですね、デフレを脱却する可能性が高い。
まあ結局、このマイナス成長が続いた結果起こっている需給ギャップというものを、プラス成長になって少しずつ埋めていってですね、やがて需給バランスがとれれば物価はゼロないしプラス領域に戻るであろうというふうにまあ見ているわけでございます。ただ仔細に言いますとですね、2010年12月期、2010年の第4四半期のGDP成長率は前期比の年率ベースでマイナス1.1ということで、マイナスになってしまいました。
何でこれがマイナスになってしまったのかというふうに思われるかもしれませんけれども、足元ですね、日本はちょっと踊り場状態にあります。昨年の夏は極めて猛暑でありまして、猛暑による消費の増というのがありましたし、自動車を購入する人に対する補助金というその、財政政策上の消費刺激策がですね、9月に取りやめられたんですね。
まあそういうことがあって、10月以降落ち込んだと。まあ自動車は非常に大きな影響をもちますので、それがマイナスになったんですけども、おそらくですね、1月から始まる1-3月期とかその後はですね、少しずつプラスに戻っていって年度全体としてはこういう姿になっていくだろうというふうに見ているわけでございます。
まあブラジルのような成長から見れば、このような成長率はですね、ちょっと満足できないというふうに思われる方もいるかもしれませんけれども、しかし日本の成熟した経済が年率1%ないしは2%ぐらいで成長していくということはむしろ、まあ定常状態による安定的な成長という意味でですね、ポジティブに考えてよろしいのではないかというふうにまあ思います。
で、次のページにまいりましてですね、先程ちょっと申し上げましたこの海外生産比率の上昇、この2%ちょっとの、企業全体でですね、昔はわずかしか海外生産しておりませんでしたけども、今はですね、この調子で行くと20%ぐらいは海外で生産するように日本企業はなっていくのではないかというふうに思われているわけでございます。
こういうことで、この海外生産という場合には大体アジアなんですね、日本の場合には。で、アジアに生産拠点を移すということはですね、日本の失業率は上昇していかざるを得ない。先程1%からずっと、失業率が上がってですね、5%程度に今なっております。
失業率が5%ぐらいのまま高止まりした状態が続くということはですね、失業している者と就業している者の格差が拡大していくということを意味しますので、やや、中流が90数%と申し上げましたけども、中流層が少し縮小しているような傾向にあるように思います。ブラジルはまあ中流層がだんだん増えてですね、5割を超えたというようなことを伺っておりますけれどもですね、成熟した経済においてはその、どんどん中間層が増え続けるというのは限界があるということでございます。
さて、以上日本の過去の歴史をですね、申し上げてまいりましたけれども、ここでまあいくつか参考になるとすればですね、高度成長が持っているプラスの側面とですね、ポジティブな側面とネガティブな側面があるということをひとつ、まあ頭に置かなければいけないということとですね、あまりの高度成長、あまり景気刺激的な状態が続くとバブルが起こってですね、バブルというのは中々コントロールが難しい。いったんバブルになるとですね、その後の処理が大変だということであります。まあ90年にバブルが崩壊してから今日に至るまで、日本はデフレ的な状況にあるということですね。
で、アメリカがですね、2008年にリーマンショックによってまあ本当の意味でバブルが崩壊したわけでございますけれども、最近ですね、アメリカ経済が少しずつ順調に回復しているんじゃないかというようなことが言われておりまして、昨年のクリスマス商戦がまあ順調であったとかですね、アメリカの消費というのはまあGDPの7割を占めておりますので、それが堅調といったようなことが伝えられておりますが、どう見てもですね、そう簡単にバブル崩壊後のバランスシート調整が進むとは私には思えません。
日本だけが10年20年かかってですね、アメリカは2008年からもう2年ぐらいでですね、その局面を脱出できたかというと、多分まだまだ時間がかかるだろうと。ですからアメリカは、かつて日本もですね、バブル崩壊後全部成長率がダウンしたかというとそうでもないんですね。
上昇局面もあったし、下降局面も2度ばかりありました。経済の循環的な変動というのはですね、全体の低迷の中でもあるということでございますので、私はアメリカはまだしばらくですね、大局的に見ると低迷した状態が続くのではないかというふうにまあ思っております。さて、以上日本の過去の歴史を申し上げましたが、これからですね、日本の抱えている課題について触れてみたいと思います。次のページお願いします。
これは人口の推移でございますが、日本はですね、総人口1億2700万人を2004年ぐらいに達成いたしまして、その後減少過程にすでに入っております。このまま行くとですね、2055年ごろには9000万人を切ると。元々50年前には日本の人口は9000万人を切っておりましたので、この1世紀の間にですね、9000万人弱から1億3000万人ぐらいまで増えて、その後また元に戻ると。同様に就業人口もまあこういう形を描いているわけでございますが、ただその元に戻るといってもですね、中身を見ると様変わりでございまして、1950年ごろのですね、老年人口、65歳以上人口比率は5%以下でございましたが、2050年にはですね、40%を上回るようなそういう老年人口割合にまあなってしまう。
年少人口というのは0歳から15歳まででございますけれども、これはですね、8%ぐらいに縮小して、倍ぐらいあったものが半分になってしまうということでございます。さて、この老年人口と就学以下の年齢、すなわち生産に参加しない人口と、生産に従事する人口がほぼ1対1という姿になってしまうと、2050年ごろにはですね、1人の人がですね、若者と老人を面倒見ると、そういう社会になってしまうということでございまして、これがどういうことを意味するのかというのはもう明白でございます。
一つはですね、この4割を占める高齢者にある程度の幸せな社会でなければならない。だからこの人たちにどのような居心地の良い社会を作るかということが大事なことであって、それは医療とか年金とかいう社会保障をある程度確保する必要があるということでございます。
でもう一つはですね、やっぱりこのまま若者が減っていくというですね、今2人の夫婦が産む子供の数が1.3人前後なんですね、平均しますと、やっぱり2人の夫婦が2人を産んでもらわないとですね、人口は維持できません。
まあ笑い話ですけど、このままですね、ずーっと減っていくと最後には、800年後には日本の人口はゼロになってしまうという計算をした人がいるんですけど、これはまあ意味はありませんけども、そういう状態からですね、何とかこれは脱却する必要がありますので、出生率を引き上げるという政策がどうしても必要でございます。
最後にですね、これだけの就業人口の減をですね、補うために、外国人労働力を受け入れざるを得ないだろうというふうに思います。そうなった時にはですね、日本の社会はまだ極めて、海外からの労働力受け入れに対してですね、慎重でございますので、ゼロではありませんけど慎重でございますので、その辺りについてもう一回考え直す必要があるだろうということでございます。
ブラジルについて、次のページでブラジルについてちょっとついでに申し上げますとですね、ブラジルはどんどんどんどん人口はいま上昇過程にありまして、2050年ぐらいになると、40年から50年ぐらいになるとまあフラットになると。これ以上増えない。
就業者もちょっと減少気味になる。それはすなわち、まあ高齢化が進むと。でこれがブラジル、ブルーの線がブラジルなんですけども、これで見るとですね、どんなことが言えるかといいますと、2010年、この段階でですね、日本の65歳以上人口比率が22、3%のレベルにあると。それにですね、40年後ぐらいに到達すると。現在の日本の高齢化の社会にブラジルは40年後に到達するということを意味するわけであります。
その、現在の高齢化の社会を日本は何年かかったかというとですね、大体この、70年ごろの数字を見るとですね、ブラジルの現在の姿とほぼ同じなんですね。6%か7%ぐらいでしょうか。そこからですね、22、3%、すなわち約15%上がるのに40年かかったんですね。だから日本の過去40年の姿をブラジルは追うことになるだろうと。
しかしまあ、日本はですね、2050年になるとさらに15%、40年の間に増えますのでね、日本の方がもっとひどいことになるわけでございますけれども、ブラジルにもそういう問題はあると。これから社会保障問題とかそういうことが、すぐには出てこないかもしれませんけれども、長期的にはあるということは頭に置く必要があるだろうというふうに思います。
第2の長期的課題はですね、次のページに参りまして、財政赤字問題でございます。日本の財政赤字は、単年度の財政赤字はですね、10%を超えておりまして、実は主要国は皆いま超えてしまっております。超えた理由はですね、オバマさんは自分のところで起こったリーマンショック後の経済停滞を財政出動によって回復させようとしたこと。
イギリスも同様ですね。ロンドンの金融市場は崩壊しましたので、同様でございます。ただ、政府債務残高、ストックの債務はですね、日本はこれがダントツに高い上にですね、ますます増えていって250%になってしまうと、まあ2015年には250%になってしまうというのがIMFの推計でございます。
アメリカも増えてはいきますけれども、あるいはイギリスも増えてはいきますけれども、しかし日本の250%はダントツの状態であります。このようなことが長続きするものかどうかということについては、誰も長続きしないんじゃないかという懸念をもっているわけでありますけども、次のページに参りましてですね、今政府、地方で発行している国債残高というのは900兆を超えておりまして、まもなく、これ2009年なんですけれど、2010年にはですね、もう1000兆に近くなるのはほぼ間違いない。
ただですね、家計の金融資産が1442兆ありますので、そのうちの大半のものが、かなりの部分がですね、国債保有に回っている。まあ日本の国債保有者構造を見ると、銀行、保険といったようなところが非常に大きな部分を占めておりますので、この金融資産が預けられた結果、この金融機関が大量に持っていると。
海外が持っている日本国債のシェアというのは5%程度に過ぎません。95%は国内消化されていると。アメリカの国債の海外保有割合は約5割でございますので、日本のこの海外保有割合がいかに低いかということが良く分かると思います。そういうことでございますので、そう簡単にですね、日本の国債金利が暴騰する、国債価格が暴落するといった可能性は、近未来にはないかもしれません。
しかし、つい最近ですね、ある格付け会社がですね、日本の国債の格付けをAAフラットからAAマイナスに引き下げました。1月の末でございますけれども。まあ、海外からはですね、日本の国債がひょっとすると値崩れするかもしれないという、まあサインを出したというふうに考えられますので、あまりこれを大げさに、もうまもなく日本は大変なことになると言うつもりは全くありませんし、また事実そんなことにはならないと思いますけれども、まあ国債といえどもマーケットの監視下にあるということは頭に置いておかなければならないということでございます。
まあ日本の課題としてですね、2つを申し上げました。次はまあ、世界経済の課題ともいうべき問題を申し上げたいと思います。これはですね、先進国と新興国のGDP、世界のGDPにおけますシェアを示したものでございます。
まあ、わずか10年前にはですね、8対2ということでありましたが、今は6対4ということに、今はというかこれは2015年の予測なんですけども、2010年で見ると大体まあ3対7ですね、さらに5年経つと4対6になっていくと。明らかにですね、この新興国のシェアが増加しているわけでございます。当然この中にはブラジルも大きく貢献しているということでございます。
さて、次のこのページでございますけども、こういうですね、エマージング諸国の台頭というものは日本経済に非常に大きな影響を与えているということを示す図表でございまして、かつて、30年前はですね、日本の貿易相手国は2割が米国でありました。中国関係は約5%でありましたが、今日ではですね、20数%が中国であり、米国は極めて縮小してきてしまっているということでございます。
まあ残念ながらブラジルと日本のこの関係はですね、貿易相手国という意味では、日本はまだアジアに向かってですね、取引を拡大しているということでございまして、私はもっとブラジルと日本の関係が大きくなる、今後なるのではないかというふうに期待しますけれども、現状ではこういう実態でございます。
この世界の構造変化の中で、貿易構造が変わるということはですね、実はある意味世界秩序が変わるということを意味するわけでございます。まあ何を申し上げるかというと、世界経済のですね、主要なルール作りを、今まではG7で行ってきたわけでございますけれども、今後はG20ということにまあなるであろうということなんですね。
新興国も参加した上でルール作りをしていかないとですね、世界は丸く収まらないという状態が出てくるであろうというふうに思います。明らかにですね、このBRICs、特にブラジルがですね、そういう中でどういう役割を演じていくかというのはまあ大変重要な課題であろうかというふうに思います。
さて次はですね、次のページちょっとお願いしたいんですが、世界のですね、この、リーマンショック後の不況というものが何をもたらしたかというとですね、一つはですね、元々放漫財政であったギリシャ以下のですね、PIIGS諸国の財政のサステナビリティというものが非常に困難になったということでございます。
ご承知のとおりですね、ギリシャは昨年の5月に事実上破綻いたしました。IMFとユーロ諸国が3年間に1100億ユーロ、10数兆円のですね、資金をギリシャに融通するということをまあ決定して、ギリシャの国債がデフォルトはしませんよということをまあ保証したわけでございます。その結果ですね、ギリシャの国債金利は正常化の方向に向かいました。
この資料は国債利回りの対独スプレッドということで、ドイツの国債金利というのはまあ3%ぐらいで安定しておりますので、それを引いた、ドイツと比較した場合のPIIGS諸国の利回りはどのぐらいドイツからかけ離れているかという表でございます。一時はですね、ギリシャの国債は10数パーセントの金利になったんですね、ドイツ金利を差引いて10%近くなったわけですから、一旦は沈静化したかに見えたんですが、その後ですね、また高止まった状態にあるんですね。ですから、ギリシャに1100億ユーロ融通して、当面は凌いだけども、3年経ったらギリシャは返せるのだろうかということに対して、マーケットは危惧しているという姿を示しているわけでございます。
昨年の11月にアイルランドがギリシャと同様にですね、財政的に行き詰まりました。アイルランドに向かっても、同じ措置がとられてですね、急騰したのが、一応それ以上は増えない、上昇しない状態になりましたけども高止まっております。
次はポルトガル。でポルトガルはですね、まだ破綻、事実上の破綻ということは免れておりますけれども、マーケットはですね、PIIGS諸国の中の3番目のポルトガルを注目し始めているということでございます。まあスペイン、イタリアがですね、その次のPIIGS諸国でございますけれども、まあ今のところですね、スペイン、イタリアについてはまあまあ安定した状態にあると。
万が一ですね、この、ギリシャやこの辺りの国々に本当にデフォルトが起こると何が起こるかといいますとですね、これらの国々の国債を持っているのはドイツとフランスの金融機関なんですね。したがってここが破綻するということはドイツとフランスの金融機関が不良債権をもつということになりまして、それが日本と同じようにですね、金融機関が潰れる可能性がまああるのではないかということが心配されているんですね。
したがって、欧州発金融危機といったようなリスクをですね、今マーケットは少し頭の中に入れ始めた、入れ始めていると。私はこの、ここの国々が破綻するということは実はないと思ってはおります。何故ないかというとですね、破綻するとユーロが行き詰まるんですね。これは全てユーロ加盟国でございます。
ユーロという単一通貨を実現したですね、16カ国の一員なんですね。でドイツとフランスはですね、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルに対してですね、ちゃんと自分で再生しろと、財政健全化を図れと、そんな助けてくれといっても助けないよということをメルケルさんもサルコジさんも主張しておりますけども、それはドイツ国民向け、フランス国民向けのまあ政治的な発言としては非常に意味があるんですけれども、本当に助けないとですね、ドイツ、フランスがおかしくなってしまうんですね。
ユーロがおかしくなりますので。だから、もう一心同体になったですね、ユーロ16カ国は必ずこれらの国々をですね、支援せざるを得ないだろうというふうに思いますので、ここから破綻するという可能性はそんなに高くないと私は思っております。
さて、ちょっと先を急ぎましてですね、先程その、このPIIGS諸国の問題のそもそもの原因でありますリーマンショック、それは実はアメリカで起こったことであり、そのアメリカ経済の変調はですね、ヨーロッパにまあ飛び火し、日本にも飛び火してきたわけでございます。
金融機関の不良債権は、ブラジルも日本もですね、彼等のもっておりますサブプライムローン由来のですね、金融派生商品、デリバティブズをほとんど保有しておりませんでしたので、それによって怪我はほとんど無かったと。ブラジルも日本も同じでございます。
しかし、景気が悪くなったことによる輸出、あるいは株価の下落を通ずる影響によってですね、大変な被害をこうむっているわけでございますが、そのアメリカもイギリスもですね、不況から立ち上がるために財政出動と、極めて金融緩和を、まあ前例のない金融緩和を実行いたしました。
でその結果起こっているのがですね、日米金利差の縮小。アメリカの金利が下がってきておりますので、日本の金利はもうほとんどゼロですからこれ以上下がり得ない。アメリカの金利が下がってくると金利差は縮小するという形でですね、その金利差の縮小が円高を招いたということでございます。
05年から比較すると26%、まあここから比較するとですね、この辺りから比較するとですね、26%アプリシエイトしたと。レアルにいたっては61%切り上がってしまったということでございます。日本はそれに向けてですね、日米金利差を何とか縮小しなきゃいけないというイメージでですね、アメリカと同じように金融緩和をせざるを得なくなりました。
金融緩和ができたのはデフレ状態だからなんですね。で、ブラジルはですね、インフレ懸念が強いわけですので、外から入ってくる余剰資金に歯止めをかけなければいけません。それを理由にですね、様々なことをやっているわけでございますけども、しかし入ってきた結果インフレが起こるのを懸念すると金利を上げざるを得ないんですね。
金利が上がればその利差を求めてより資金が流入してくるというジレンマにまあ陥っているという、非常に難しい状態にあるわけなんですね。この議論に対して、ブラジル中央銀行の方々はですね、実にきっちりと対応されているといいますが、問題意識をもっておられるということを、最初にまあ私は申し上げたわけでございます。
さらにですね、次のページにまいりまして、これはコモディティ価格の状況でございますけれども、農産物のですね、価格が最近急騰しております。原油や銅の価格も急騰しておると。まあ原油はこの2008年に起こった急騰から見ますとですね、まだそこには至っておりませんけども、他のものはですね、例えば銅はかつての2008年をもう超えてしまっているといったような状態になっているわけでございます。
で、これらのものを輸入する、あるいはこれらのものを輸入して製品を作るのは先進国でありますので、まあ先進国にとってはこれをどのように対応していくかということは問題なわけでございますけれども、今起こっておりますのは、先進国ではデフレという状況でございます。
日本がデフレということは申し上げました。アメリカもですね、実はこの、さっきちょっと数字をご覧に入れましたけども、消費者物価が急落しているんですね。それで2%ぐらいがアメリカにとって望ましいインフレターゲットだというふうに思っているわけでございますけれども、それがまあ0.5%ぐらいまで下がってきてしまいましたので、バーナンキFRB議長はデフレ対策としてですね、日本のようにマイナスになる前に徹底した金融緩和によってですね、プラス領域にもっていかなきゃいけないと。
一旦ゼロ以下になった経済をですね、プラスにもっていくのは如何に困難なのかということは、バーナンキさんは日本を見て学んでいるわけなんですね。そこで早めの大幅金融緩和をやりました。これが、新興国にまあ資金の流入の原因になっているわけなんですね。
で、しかし、じゃあアメリカはとんでもない間違った政策をやっているのかというと、アメリカ経済が立ち直らないことには世界経済は立ち直らないという意味でですね、やはりアメリカの財政刺激、金融緩和は私は正しい選択だと思うんですね。あらゆる政策に副作用があると申し上げましたけども、その副作用によって影響を受ける円高、為替レートの変化とか、新興国のインフレ、これにどうやって対応するかということが今の世界の問題でございます。
先進国ではデフレ、新興国ではインフレ、この2極化がですね、今世界で起こっているわけでございます。したがって先進国ではデフレ対策として緩和的な政策をとると。その結果、財政赤字は拡大し、金利は低下し、余剰資金が世界にあふれると。新興国はインフレでございますので、今言ったようなことがですね、さらにそのインフレを加速させる恐れがあるということから、じゃあどうしたらいいかということで、今様々なネゴが行われているわけでございます。まあ日本はデフレ、ブラジルはインフレ懸念といったようなですね、そういう組み合わせにまあなってしまっているわけでございます。
以上がまあ、世界を取り巻く現状なんでございますけれども、こういう中で日本とブラジルがどのようなものに、どのような関係を築いていったらいいのかということになればですね、日本の持っている技術水準、日本の技術というのはまだ非常に評価が高いですね。
中国の方々が電気製品を日本に来て買っていくんですね。何で同じようなものを日本へ来て買うんだと聞くとですね、品質がいいからと、こう答えるんですね。中国の女性は日本の化粧品を東京で買いあさっていくんですね。何でかっていうと、日本の化粧品は安心して使えるからだと。要するに安心とか安全とか品質ということに対して日本のブランドはですね、まあ多分ドイツと日本のブランドはですね、世界に一番通用するものと。
で、その日本の技術とですね、ブラジルの持っている多様な資源および労働力というものが結び合うことによってですね、先進国で起こっているデフレと新興国で起こっているインフレというものを、私は、かなり大きくですね、影響を及ぼすことができるのではないかと。
まあ細かく言えば、どの国の輸出がどうなって、どの国が増えるけどどの国が減るとかですね、ミクロで言えば様々な競争があります。まあそれは、私の立場から一つ一つの企業戦略、国の戦略をですね、あまり論ずるのは適切でないというふうに思うんですけれども、どうやったらですね、世界経済に貢献できるのかという視点から見たら、ブラジルと日本がですね、それぞれの補完的な関係をですね、生かしあっていくということによってですね、多分、まあ資源、環境、様々な問題を抱えている世界経済に貢献できるのではないかというふうに思っているわけでございます。以上、大変時間を超過いたしましたけれども、私の申し上げたいことを申し上げまして、これで終らせていただきます。ご静聴どうもありがとうございました。
司会
アカデミックで体系的なお話、どうもありがとうございました。またブラジル、そしてブラジルとの関係におきましてもですね、言及いただきありがとうございました。えっと、ご質問は、ないと思いますので、次に参りたいと思います。
それではこれから部会の発表、あ、それからですね、武藤様は本日別件のご用事がありですね、3時ごろにご退席されますことをあらかじめご報告を申し上げます。それではこれから部会の発表に移ります。トップバッターは金融部会でございます。小西部会長、よろしくお願いいたします。