赤嶺尚由コンサルタント副部会長
えー、ちょっと事情がありまして、5分間遅れたことをあらかじめお詫び申し上げます。
ただいまご紹介に預かりました、コンサルタント部会副部会長の赤嶺でございます。私の取り上げる報告と発表といいいますのは、タイトルは一応「今年の大 統領選挙をこう考える」、こう見るという観点から、皆様のご意見を後で是非うかがいたいと、こういうふうに考えております。
会場にいらっしゃる西林万寿夫在サンパウロ総領事、歴史有る我らの、開かれた、チャレンジするブラジル日本商工会議所の田中信会頭、本日の業種部会長懇 談会の準備や運営のためにたいへんに汗を流してくださっている多田総務委員会委員長、金岡企画戦略委員会委員長をはじめ、また、多分お役目柄でしょうか、 少しきつめの視線を向けていらっしゃる山田監事会議長をはじめ、ご出席くださった大勢の皆様方を目の前にして、すこしネルボーゾであります。ちょっと緊張 しております。
少し私の緊張感を解く意味と、もうこういう古き良き時代の業種別部会長懇談 会に関するたいへん懐かしい、また微笑ましい思い出をご存知の方も少なくなっているというふうに思いますので、また西林総領事もご多忙中の所わざわざご出 席いただいておりますので、そういったちょっと微笑ましくも懐かしい、いやむしろ愉快な事柄から先に少しお話させていただきます。
先ほど壇上に立たれた田中信会頭は、現在の要職に就かれる前に、私の記憶ではおよそ30年近くも、伝統あるコンサルタント部会の万年部会長を務められ、 もちろん、されあに伝統あるこの業種別部会長懇談会でも第一番目の報告者を担当されるのがいつの間にか一つの不文律みたいになり、そしていつも期待に違わ ず立派な、内容がしっかりして立派な報告をなさいました。
ところがであります。その田中コ ンサルタント部会長の一つの難点、といいますか難しいところは、当時から時間にはやはりたいへんうるさかった総務委員会で決められた制限時間を守らないこ との常習犯で、いや守るどころか、時間は使うためにある、規則は破るためにあるというような、こう非常に柔らかい考え方というか柔軟性に富んだものの考え 方をしていらして、それがまた私たち関係者の非常に頭痛の種でもありました。
そこで当時の 総務委員会では、特別に田中部会長対策として編み出されたのが、クロノメーターと呼び鈴を使って厳しく時間を測定し、物理的な力でもって有無をいわさずな んとか押さえ込もうとこういうことでございました。ここでもう一回、「ところがです」を繰り返さなければなりません。ところが、ある年の上半期か下半期の 部会長懇談会の時だったと覚えていますが、制限時間前の9分の時点でチンと呼び鈴を一回合図し、制限時間10分ぎりぎりでチン、チンと二回呼び鈴で合図し ても、まさに平気の平左。田中部会長は、当時の総務副委員長として計測係を仰せつかっていた私の方をチラッと視線を送られただけで、後は何事もなかったよ うに、再び涼しいお顔で報告発表を続けられ、また、事もあろうに制限時間の二倍、つまり20分を軽く越す大きく長い報告をなさいました。
こうなりますとご本人の自覚の問題ですから、もう物理的な方法では何とも手におえないと、こういうふうになりました。いやあ、さすがに将来の歴史ある日 本商工会議所の会頭になられる方の心臓は強くて太いと、太いわいと、改めて感じた次第であります。それから間もなく経って、晴れて当会議所の会頭となられ ました。
そこで、本日の多田、金岡両委員長、いやとりわけ田中会頭には、あの時のちょっと した恩返し、あるいは借金の一部でも返済していただく意味で、本日の私の拙い話にも、10分とは申しませんが、ややそれに近い制限時間のご猶予をいただき たいと、こういうふうに考えております。でもできるだけ駆け足で、私の報告をさせていただきます。
それでは、少し気持ちも落ち着いたところで、私の本日の報告に移ります。今年のブラジルは俗に「政治の年」と言われてます。それは、4年に一度の大統 領、27州知事、上院議員の定員の三分の二に相当する54議席の改選、513人の下院議員全員を一緒に選ぶための総選挙が10月1日に同時に行われるから であります。
その中の注目の的は、大統領選挙の行方がどうなるか、さらにその中でも最も大 事な焦点は、ルーラ大統領の再選続投が果たして実現するかどうかにあると私は考えます。以下、二人ともまだ正式には決まっていませんけども、ルーラ候補と セーラ候補というふうに省略させていただきます。
えー、なお、政権の座を握ってから、昔極 端に、2002年の選挙前には極端に左よりだったPTは中道の方へ、真ん中の方へ。同じく左翼の、左の色合いをはっきりさせていたPSDBも中道の方にと いうふうに向かってこう収斂していきつつありますので、二つとも、PTもPSDBも限りなく党の色合いが似たような、近づいたような感じを受けます。選挙 での票稼ぎをかなり意識した、つまり左がかった極端な党の色合いでは勝てないと、中道に位置しなければなかなか一般の票を稼げないという、党としての政党 としての軌道の修整ではないか、というふうに私は受け止めております。
ここで、私の本日の 報告の結論部分から、一番言いたい部分から先に申し上げたいと思います。肝心の大統領選挙で誰が勝つのかについては、あと8カ月以上もありますので、おそ らく今年八月の下半期の当業種別部会長懇談会の時点ではもう少しはっきり申し上げることができると思いますが、本席ではどうしても当たるも八卦、当たらぬ も、という要素が強いような、不透明な、霧の中の不透明な感じをと言いますか、その側面を伴わざるを得ませんが、私は目下のところ今年の大統領選挙は、 1997年の憲法修正案が承認され翌年の大統領選挙から適用されたように、PrimeiroTurno、第一次投票で50%プラス一票の絶対過半数を獲得 した候補が現われませんと、上位二者に絞ってSegundoTurno、第二次投票、以下決選投票と省略させていただきます、の段階に進み、勝敗の決着を つける仕組みになっております。
えー、現段階では予選投票の段階でいきなり絶対過半数、 50%プラス一票をとれる候補はまず現われそうにありませんから、最後の戦いに挑む公算が非常に大きいのは、PTを中心とする現在の与党陣営のルーラ候補 (当年60歳)とPSDBやPFLが連立を組む形で野党陣営に後押しされるセーラ候補(当年63歳)の顔合わせになりそうな気がしております。
そしてずばり、セーラ、野党陣営のセーラ候補が最後まで与党陣営のルーラ候補と激しい接戦を展開した結果、セーラ候補の当選を予想しております。あるい は、もうちょっと踏み込ませて頂いて、そういった可能性を相当程度に肌身で感じつつ、またすでにこの国へ帰化していて、たった一票ではありますが選挙の都 度欠かさず選挙権を行使してきております私のささやかな期待でもあります。こういうことを申し上げていいかどうか分かりませんが、私の主観であります。
先につい本日の私の報告の結論を申し上げたところで、続いてなぜそう見るのか、何故そう考えるのかを説明するのに是非とも追加補足しておかなければなら ない事柄があります。現職の大統領というたいへんに恵まれた立場にあって、まだいろいろな行政マシーン、行政組織をフルに利用できる活用できるルーラ大統 領が、まず最低賃金をこれまでの300レアルから350レアルに、かなり大幅な調整を実施すると、選挙結果を考慮にいれた措置を早々と発表しております。
さらにIMFへの百五十億ドルの負債を前倒し式に一括返済したこと。レアル高とドル安という逆風が吹く中で、何とか輸出の好調に支えられて四百五十億ド ルを目前とした大幅な貿易黒字と経常収支を計上したこと。原油の国際相場が急騰している中で何とか石油の自給率を達成したこと。
中南米諸国で社会主義を標榜する、ちょっとこう左がかった政権を標榜する、そういう政権が次々誕生して、それがどうもルーラ候補の背中を後押ししそうな ことなど、ルーラ大統領の再選続投への戦いを、先ほども申し上げたように、後押ししてくれそうなその材料にも事欠きませんが、一番効果を発揮しそうな、秘 密兵器といってもいいものは、やはり最低賃金の、現下の財政状況のもとで許される思い切った最低賃金の調整だというふうに私は考えております。
やはり現職にあるものの強みでしょうが、四月一日から、普通は五月一日ですが、一ヶ月も前倒しに実施される、公式インフレ指数が、確か先日の新聞で 5.69%ですか、というふうに報じられていましたけれども、それを差し引いても実質11%内外の思い切った調整。私はあえて思い切った調整というふうに 申し上げますが、そういったものが選挙にもたらす広報は数千万人の貧困者がなお生活しているというこの国の状況を考慮に入れますと、とにかく抜群の効果を 上げるような気がしてならないわけです。
単に最賃だけを引き上げればいいというものではな くて、年金、恩給への連動調整分を計算に入れますと46億レアルもの追加支出を覚悟しなければならず、現在の財政情勢の下ではちょっと、先ほども申し上げ ましたけども、ちょっと無謀かな、無理かなというような思い切った引き上げを四月一日からというふうに決定し、今テレビや新聞で大きくPRしている最中で あります。
えー、ルーラ大統領はすでに選挙運動をはじめていると言っても間違いないと思い ます。えー、一方ルーラ大統領の再選続投への戦いを非常に厳しくさせそうなものは、特に政治行政面で目立った得点が上げられず、とりわけ2002年の大統 領選挙で初当選を果たした時に一般国民ができるだけ暮らしやすい、暮らしやすくなるように、この国をムダンサ、単なる変化というよりももっと強い意味の、 変革という意味でしょうか、させてみせるとかいろんな公約を掲げながらほとんど公約倒れとか、不履行の形に終わってしまっているからだと思います。
それがルーラ候補の大統領の再選続投を阻む最も、最もとはいいませんが大きな要素のひとつになるというふうに考えております。その反対に一方のセーラ陣 営は、政治面でまず一般国民を見方すべきはずの時の政権と政権与党を巻き込み、闇の世界の中でやりとりされた政治買収資金のうち使途不明金だけでもまだ 50億レアルから60億レアルに達しついにこの国の史上最大の規模に達してしまったという今回の超大型の不正汚職事件を選挙戦で徹底的に追求しながら、着 実に、支持率といいますか、得点を重ねていき、そして大統領陣営に積極的に攻め込んでいくというような作戦を展開するように考えられます。
ここで、ちょっと私の手前味噌になりますが、昨年二月二十六日でしたか、ちょうどこの部会長懇談会の上半期の懇談会が開かれた時に、当時はルーラ候補の 当選確率が80%にも達して、場合によっては予選投票の段階で早々と決着がつきそうだというふうに多くの観測筋が見ておりました。
その中には有名 なフォーリャのコラムニストで、国際的に大きなイベントがある時の取材にもかりだされているクロービス・ロスという、まあ現在の新聞界では本当に国際的 に、おそらく国際的に外国では国内よりも知られているクロービス・ロスという記者がおりますけども、彼も本当に時の政権与党にはいつも厳しい批判を重ねて いますけれども、ルーラ再選はまちがいないというふうに太鼓判を押していました。
私はそう いう、ちょうど敵なしの有利な立場にあるルーラ大統領とPTにもし予期せぬとっぴなことが起こるとすれば、それは大型の不正事件に巻き込まれることだろう というふうに申し上げた事を今でもはっきりと覚えています。事件が発生する前から四カ月近い、三カ月ちょっと、あと少しで四カ月という時点でしたが、それ は何も手柄話をするためではなく、今回のブラジル史上最大の不正汚職事件というからには、かなり政界の、その当時の以前から、おそらく私の観測では2、3 年前から、数年前からかなり政界の奥深く巣食っていて時間をかけてゆっくりと次第に漏れ出し、そういう形で昨年六月六日についに暴露されてしまったという ふうに思います。
ご参考までに、時の政権と政権与党を巻き込んだブラジル史上最も大きな不 正事件に発展してしまった今回の事件から、ルーラ大統領が大統領選挙の面で受ける打撃はすでに20%程度の世論調査の面での支持率の低下となって現われて いるように伝えられています。もちろん支持率はいつもエレベータのように上下を繰り返していますから、これから次第に回復していくということも考えられま すが、それを単純に、私なりに試みに計算してみました。
この20%の支持率が、これからずっと選挙まで、今年10月1日の大統領選挙の決選投 票まで続くというふうに仮定しまして、2002年の決選投票に進んだ二人の票数をベースにして試みの計算をしてみたところ、ルーラ候補の当時獲得した 5279万票、全体の61.3%でしたが、まず5279万票から20%をマイナスしたら4210万票(4223万?)となり、反対にセーラ候補が獲得した 3337万票、36.何%ですが、それから逆にプラスしました4397万票となり、180万票台のまだかなり接戦と表現してもよい展開になることがわかり ました。
しかしこれは私というど素人の興味本位の試算ですから、あくまでもご参考という意 味合いを込めてでございます。ちょうど時間が到達したようですので、私の結論をあと一分間くらいで急ぎます。2002年よりも手に汗を握るたいへんな激戦 を展開し、見る側にとっては非常に面白い展開になりそうな予感がすでにしております。
ブラ ジルは名物のカーニバルやフットボールの覇者になりそうな予感が今年は特にします。ブラジルがコッパのチャンピオンだろうと。ブラジルと日本で覇者を争っ てほしいという気持ちが私はことさらに強いですけども、ブラジルは名物のカーニバルやフットボールをご覧になってもよくお分かりの通り、総じて明るい、楽 しいお国柄ですが、選挙戦の時だけは相手を罵り合い、足を引っ張る泥仕合もよく見られます。
結論を繰りかえします。今年の大統領の決選投票の第二回にいたるまでの熱い争点、戦いのポイントは、どうも最低賃金の思い切った調整からもたらされる経 済面でのプラス効果をいったいどれくらいまでルーラ候補が受けることができて再選続投へつなぐことができるか、あるいはこのブラジル歴史始まって以来の超 大型の不正汚職事件と言われる今回の事件から、政治面でのマイナス効果がこの同じようにルーラ候補にもたらされるのか。
最低賃金のプラス効果と不正汚職事件のマイナス効果が激しくぶつかりながら、ポラリザソン、二極化を描きながら決選投票に向かってなだれ込んでいくというような感じがしているところでございます。10分間をちょうど2分間ぐらい・・・
(司会)えー、よろしいですか?
(赤嶺)たいへん失礼しました。
(司 会)どうも赤嶺さんありがとうございました。すいません、司会がちょっと大失敗しましてですね。発表者の前にタイムキーパーがおりまして、一応10分でス ピーチをお願いしますので、8分経ったところで黄色い札を見せますので、それが見えたらそろそろまとめに入ってくださいという意味でございまして、これを 私、赤嶺さんに言うのを忘れておりました。失礼しました。
(赤嶺)私は当時、時計計測係を言い付かって、失態をおかしてしまいました。
(司会)大丈夫です。全体の時間は一応余裕とってありますので。ここでフロアの方から何かご質問、ご意見ありますか。主に、政治、大統領選挙に関してですが。特になければ、ありますか、はいどうぞ。
(質問)(PSDB候補が当選が日伯経済関係に影響をおよぼす可能性について)
(赤 嶺)その点については、私は、マクロといいますか、そういう面での専門家ではもちろんありませんが、私は総体的に経済政策では、マクロ面での経済政策の大 幅な変化はないというふうに申し上げたいと思います。特にジョゼ・セーラになっても、日本とブラジルの関係は強まることこそすれ、弱まることはない、とい うふうに思っております。
これはFHC前大統領がセーラの後ろにはついておりますし、知恵 の参謀という形でついているようですし、PSDBという政党もかなりしっかりした、安定した政党のように思いますので、急激な政策の変化、日伯関係のあれ はむしろ総領事あたりにお伺いしたほうが言いと思いますが、私はただ経済政策、ミクロといいますか、例えば金利とか為替の相場、金利高、為替のちょっとレ アル高とドル安の極端な為替相場、そういったもの、もうひとつあるはずなんですが、そういったものはジョゼ・セーラもすでに言っておりますようにかなり急 激に大幅に是正されていく、改められていくという感じがします。
その改め方は、FHCからルーラになった時より、ルーラからジョゼ・セーラになっ た時の方が、為替相場とか金利高の是正の仕方は大きな変化を伴うと、伴うに違いないと。それでなければセーラ政権もちょっとやっていけないだろうと、こう いうような感じがします。たいへん申し上げございません。時間をたいへんに超過しました。お許しくださいますよう、
(司会)どうもありがとうございました。ちょうど為替とか金利とかいう話出ましたので、次に金融部会の代表で、みずほの福田さんに発表をお願いいたします。
<今年の大統領選挙をこう考える>
会場の一般席煮座っていらっしゃる西林万寿夫在サンパウロ日本総領事、歴史ある我らの開かれたチャレンジするブラジル日本会議所の田中信会頭、本日の業種 別部会長懇談会の準備や運営のために大変に汗を流して下さっている多田総務委員会委員長、金岡企画戦略委員会委員長を始め、又、多分、お役目柄のせいで、 私が一体何を話そうとしていつのか見守るおつもりでしょうか、会場の一角から既にこちらの方に少し厳しい監視の目を向けていらっしゃるご様子の山田唯資監 事会議長を始め、ご出席下さった多勢の皆様方を目の前にこのような高い所に立たされて、しかも、懇談会で報告の初球を投げる者として、早くもネルボーゾ気 味に陥っているところであります。
少し私の緊張感を解くためと、もうこういう古い良き時代の 業種別部会長懇談会に関する大変微笑ましい思い出話をご存知の方も少なくなっていることでしょうし、また、折角、西林総領事もご多忙中のところ、わざわざ ご出席賜っておりますので、そういったちょっと愉快な事柄から先に少しお話させていただきます。
壇 上の田中信会頭は、現在の要職に就かれる前に、およそ30年近くも、伝統あるコンサルタントの万年部会長を務められ、勿論、更に伝統あるこの業種別部会長 懇談会でも、第一番目の報告者を担当されるのがいつの間にか、一つの不文律みたいになり、期待に違わず、いつも内容が充実してしっかりした報告をなさって いました。
ところがです。その田中コンサルタント部会長の一つの難点は、当時から時間には大変 うるさかった総務委員会で決められた制限時間を守らないことの常習犯で、いや、守るどころか、時間は、使うために在る、規則は、破るためにある、とでも いったような物の考え方の常習犯で、総務委員会の頭痛のタネにもなっていました。
そこで、当 時の総務委員会で、特別に田中部会長対策案として編み出されたのが、クロノメーターと呼び鈴を使って、厳しく時間を測定し、物理的な力で以って、有無を言 わさず、押さえ込もうということでした。ここでもう一回、<ところがです>を繰り返さなければなりません。ところが、ある年の上半期か下半期の部会長懇談 会の時でしたか、制限時間目前の9分の時点で<チン>を大きく呼び鈴で1回合図し、制限時間10分ぎりぎりで<チン、チン>とやはり大きく呼び鈴で合図し ても、平気の平左、田中部会長は、当時の副総務委員長として計測係を仰せつかっていた私の方をチラリと視線を送られただけで、後は何事もなかったかのよう に、再び涼しいお顔で、報告発表を続けられ、又、事もあろうに、制限時間の2倍、つまり、 20秒を軽く越す大きく長い報告をなさいました。
こ うなりますと、ご本人の自覚の問題ですから、もう物理的な方法では、何とも手に負えないと言うことになります。いやぁ、さすがに、将来の歴史ある日本商工 会議所の会頭になられる方の心臓は強く、器も大きいワイ、と改めて感じ入ったのは、それから間もなくしてからのことでありました。しかし、誰もが嫌がり、 コンスタンジェドール(気詰まり)な計測係を5,6年にも亘って、私に無事務めさせていただいたのは、それだけ、田中部会長の報告発表の内容が素晴らし かったためではないか、と、大変に汗も掻きましたが、今では、当時のことを非常に懐かしく思い出しながら、冗談半分で話させるようにもなった次第でありま す。
そこで、多田、金岡のお二方の委員長、いや、とりわけ、田中現会頭には、あの時のちょっと した恩返し、借金の一部でも返済していただく意味で、本日の私の拙い報告にも、出来れば10分程度の時間超過をお認めいただきたい、とあらかじめお願い申 し上げます。でも、大切な会場の皆さんの方から「お前の話は、どうも退屈でつまらないので、いい加減にやめろ」という大合唱が聞こえてくれば、壇上に尚多 少の心残りや未練があっても、直ちに荷物を纏めて、ここから降りて行くことに致します。
それ では、少し気持ちも落ち着いたところで、私の本日の報告に移ります。今年のブラジルは、俗に<政治の年>と言われます。それは、4年に1度の大統領、27 州知事、上院議員の定員の3分の2に相当する54議席の改選、513人の下両院議員全員を一緒に選ぶための総選挙が10月1日に同時に行われからからで す。その中の注目の的は、大統領選挙の行方がどうなるか、更にその中の最も大事な焦点は、ルーラ大統領の再選続投が果たして実現するかどうかにあります。
以 下、まだ正式に決まったわけではありませんが、<ルーラ候補>と<セーラ候補>省略します。尚、政権の座を握ってからも、昔、極端に左寄りだったPTは、 中道の方へ、同じく左の党色を帯びていたPSDBも、中道の方へ歩み寄ってきていると言うか、収斂してきており、既に選挙での幅広い票稼ぎを意識した政治 路線の変更とか軌道修正を行っている様子も感じ取れます。
ここで、本日の私の報告の結論部分か らまず先に申し上げます。肝心の大統領選挙で誰が勝つかに就いては、あと8ヶ月以上も有りますので、どうしても当たるも八卦式の霧の中を行くような不透明 な予測の側面を伴わざるを得ませんが、私は、目下のところ、ずばり、セーラ候補(63歳)の当選を予想しています。あるいは、もうちょっと踏み込んで、そ ういう可能性を相当程度に肌身で感じつつ、又、既にこの国へ帰化していて、たった一票ではありますが、選挙の都度、欠かさずに選挙権を行使してきている者 としのささやかな期待でもしております。
先につい本日の私の報告の結論を先に申し上げかけたと ころで、続いて何故そう見るのか、そう考えるのかを説明するのに、是非とも追加補足して置かなければならない重要な事柄があることに気付きました。現職の 大統領という大変に恵まれた立場にあって、まだいろんな行政マシーンをフルに利用できるルーラ候補(60歳)がまず最低賃金をこれまでの300レアルから 350レアルにかなり大幅の調整を実施すると選挙効果を計算に入れた措置を早々に発表しています。
単 に最賃だけを引き上げればいいというものではなく、年金恩給への連動調整分と他の政府へ及ぼす盛況も計算に入れれば、46億レアルもの思わぬ追加支出を覚 悟しなければならず、現在の政府財政の下ではちょっと許されないかなり思い切った引き上げを4月1日から行うことになりました。そこで、再選続投を図る上 で、一体、どの程度のプラス効果をももたらすような追い風を受けることが出来るのかどうかが極めて重要な要素になる筈です。更に又、その使い方で秘密兵器 みたいな威力も発揮しそうです。
その反対に、一方のセーラ陣営は、政治面で一まず般国民を味方 すべき筈の時の政権と政権与党を巻き込み、闇の世界の中でやり取りされた政治買収資金の内、使途不明金だけでも、まだ50億レアルから60億レアルに達 し、遂に史上最大の規模に達してしまったという風に伝えられる今回の超大型不正汚職事件を徹底的に追及しながら、着実に得点を重ねて行き、そして、大統領 陣営に積極的に攻め込んで、得点を積み上げて行く作戦を展開する筈です。
ご参考までに、時の政 権と政権与党を巻き込んでブラジル史上最も大きな不正汚職に発展してしまった今回の事件から、ルーラ候補が大統領選挙の面で受ける打撃は、既に20%程度 の世論調査の面での支持率の下落となって現れているように伝えられています。勿論、支持率は、エレベーターのように常に上下しますが、私には、どうもその ままの状態で、決選投票を迎えそうな気がしてなりません。世論調査の面での 20%の支持率の低下がこのままずっと続くものと仮定して、2002年の決選投票に進んだ二人の票数をベースにシロウトである私なりの試算をして見まし た。
まず、ルーラ候補の獲得した5279万票(61.3%)から20%マイナスしたら、 42100万票となり、反対にセーラ候補が獲得した3337万票にそのまま20%をプラスしたら、4397万票となり、180万票台のまだ激戦と表現して も良い展開をすることがわかりました。しかし、これは、私というド素人の試算ですから、飽くまでご参考までにという意味合いを込めてのことです。
又、 併せて経済財政面では、インフレを抑制し、経済安定を図ることだけを目的とした高金利政策やプライマリー(基礎的)財政収支の黒字目標を達成する強烈な引 き締め政策からそろそろ軸足を経済成長の方に移して行って、雇用の促進、所得分配、貧困対策等へ繋いで行く必要性を訴えながら、総人口1億8000万人の 内、凡そ9000万人にも達していると見られるこの国の有権者からどれ位の支持を集めることが出来るのかどうかにも勝負の鍵がかかっているように判断され ます。
ルーラ大統領の再選続投への戦いが著しく苦しく厳しくなりそうなのは、特に政治、行政面 で目立つ得点が挙げられず、とりわけ、2002年の大統領選挙で初当選を果たした際に、「一般国民が出来るだけ暮らし易くなるように、この国をムダンサ (単なる変化というよりもっと強い変革という意味でしょうか)させて見せるとか、いろんな公約を掲げておりながら、殆ど公約倒れとか不履行の形に終わって しまっているからだと考えられます。
ブラジルの大統領選挙は、1997年の憲法修正により、予選の段階で全有効投票数の50%+1票という絶対過半数を獲得したものが現れないと、上位2者だけに絞って、決選投票の段階まですすんで、勝敗が争われることになっています。
2002 年の選挙では、ルーラ候補とセーラ候補が勝ち残りました。ルーラ大統領が悲願とする再選続投を今年の選挙で達成し、実現するために、予選の段階で、50% プラス1票の絶対過半数を取って決定付けることは、先ず到底無理にしても、特に予選投票の段階で以って、セーラ候補以下、5,6人に上ると見られている他 の候補に圧倒的な差で、第一位を確保する必要があります。
予選で他の候補たちに圧倒的な差を付 けて勝つことが出来れば、煮え切らない態度を取っている各政党の方から、決選投票を目の目に、支持させてくれ、と積極的に申し入れてくるでしょうし、勝ち 馬になりそうな大統領には、フィリオリズモ(政府内の利権や要職と国会での支持を互いに交換したり取引するやり方)がすっかり身に付いて何よりも政治面で のやり取りが上手で、知事や国会銀の数で最大の政治勢力を誇るPMDBも、場合によっては連立提携工作に乗る公算が大きいからであります。
ルー ラ大統領は、1988年の選挙から実施されてきた(ヴェルチカリザソン=連邦レベルでの連立を組んだ政党に州知事選でも同じ政党による連立を義務付け、推 し着せること)という、1988年の選挙から適用された憲法上の規定を今年の選挙には、適用しない決断を下しました。
そ れは、与党候補に付くのか、野党候補に付くのか、あるいは、がローチーニョ前リオ州知事以下の独自の大統領候補を擁立するのか、一向に党色のはっきりしな い、しかし、国会で最大規模の勢力を持つ反面、選挙の行方を決定付ける位の影響力を行使できるPMDBを誘い込む目的で、主にその要求に応えるための対策 だと伝えられています。
反対に、野党陣営のセーラ候補に、第一位の座を攫われてしまいますと、ルーラ候補を担ぐ与党陣営がすっかり浮き足立ち、決選投票での勝ち馬になりそうな候補に乗るために、セーラ候補の方に向かって、雪崩現象が起きることも充分に考慮の中に入れておく必要があると思います。
ですから、今年の大統領選挙の見所といいますか、勝利の秘訣は、予選投票にあると判断されます。ただ、その点に就いては、私の不勉強かもしれませんが、有力伯字紙とかTVの解説者クラスもまだ指摘していない模様で、私の独断偏見かもしれません。
そ して、2002年よりも手に汗を握る大変な激戦を展開し、見る側にとっては、大変面白い展開になりそうな予感がします。ブラジルは、名物のカーニバルや フットボール覇者を決めるコッパをご覧になっていてもお判りの通り、総じて明るい楽しいお国柄ですが、選挙戦の時だけは、相手を罵り合い、足を引っ張り合 う泥仕合もよく見られます。
例えば、最も予想が当たると定評のあるDataFolhaという世論調査会社が行った昨年末の調査結果では、決選投票の段階での支持率がセーラ候補の50%対ルーラ候補の36%で、14ポイントという大きな差がついていました。
今年2月1日から2日にかけての行われた今年最初の世論調査の結果でも、49%対41%で同じくセーラ候補の勝ちという結果が出ていますが、その差が次第に縮まって来ている模様です。
も う一つの大手の世論調査であるIBOPEによる昨年末の調査の時点では、ルーラ候補が第一位、今年最初の調査では、セーラ候補が逆に首位に立っていて、同 じように、大変な激戦が予想されます。総体的にルーラ候補の支持率がかなり急速に回復してきている様子が伺えますが、セーラ候補もそれなりの強味を維持し ている感じもします。この二つの世論調査に限らず、他もよく的中するとの評判があります。
この 世論調査の結果を見て、一部の観測筋は、メンサロンと言う闇の中の政治買収資金をやり取りしている内に、抜き打ち的に暴露されてしまい、ブラジル史上でも 最高規模に達してしまった今回の超大型の不正汚職事件から時の政権と政権与党であるPTが受けたダメージがやっと底入れし、漸く立ち直りかけ、事件前の支 持水準に戻りつつあるといった見方をしています。
しかし、私は、ブラジル国民と言うのは、元 々、判官贔屓という性格があり、弱い立場に立った者を応援するという、日本人によく似た物の考え方なり習慣(文化)併せ持っていますので、それがたまたま 今回の世論調査の時点に反映されただけで、選挙を巡る本格的な戦いは、やっとその出発点に立ったばかりだという風に認識しているところです。
IFM への150億ドルの負債を前倒しで一括返済したこと、レアル高とドル安と言う逆風が吹く中で、何とか輸出の好調に支えられて450億ドルをも目前とした大 幅な貿易黒字と経常収支を計上したこと、原油の国際相場が急騰している中で、石油の自給率を達成したこと、中南米諸国で社会主義を標榜する政権が次々誕生 していること等、ルーラ大統領の再選続投への戦いを後押ししてくれそうな材料にも事欠きません。
し かし、これらを考慮に入れても、尚、大統領選挙戦自体が大変苦しく厳しくなりそうなのは、特に政治、行政面で目立つ得点が挙げられず、とりわけ、2002 年の大統領選挙で初当選を果たした際に、「一般国民が出来るだけ暮らし易くなるように、この国をムダンサ(単なる変化というよりもっと強い変革という意味 でしょうか)させて見せるとか、いろんな公約を掲げておりながら、殆ど公約倒れとか不履行の形に終わってしまっているからだと判断されます。
そ ういった状況の中で、ジルセウ官房長官が辞任し、グシケン政府広報戦略担当大事も半分政府を去った今、今年の選挙の指揮を誰が取るのか、政府公社や年金基 金やウジミナス等、これまで献金容疑で既に名前の挙がった民間企業もすっかり用心しているので、誰が選挙資金集めの役割を担当するかが重要課題になってい ます。
ごく最近、ブラジリアのトルト宮辺りで、辞任後初めてジルセウ前官房長官がルーラ大統領 と秘密裏に会談し、4月までに、パロッシ大蔵大臣を選挙参謀役に転出させ、後任の蔵相にムリロ・ポルトガル大蔵次官を起用し、併せて高金利引締め政策のイ メージが染み付いてしまい、更に、政界進出の意向が強いと伝えられるメイレーレス中銀総裁もついでに更迭する点で意見の一致を見たそうです。
PT(Partido Dos Trabalhadores=労働者たちの政党)と名乗る以上、常に庶民の味方であるべき筈なのに、時の政権と政権与党を巻き込んだ超大型の不 正汚職事件の発生を許し、政権そのものを私物化してしまっているのではないか、自分たちだけのために暮らし易い国造りをしているのではないか、といった鋭 い批判がマスコミを中心に巻き起こりました。
そういったことも、ルーラ候補に苦戦を余儀なくさ せる原因の一つになっているように考えられます。そのために、前回の選挙で、大いに政治面でのカリスマ性を発揮して、当選を果たした大統領自身が<政治面 で駄目なら、経済面で勝負をする>といった作戦の変更を既に口にしています。
今年の大統領選挙 の決選投票の段階に至るまでの熱い争点(戦いのポイント)は、どうも最低賃金の思い切った調整からもたらされるこの経済面でのプラス効果と超大型の不正汚 職事件からもたらされるこの政治面でのマイナス効果が激しくぶっつかり合い対決しながら、次第にポラリザソン(両極化)して行きそうな気がしてなりませ ん。
最低賃金の思い切った調整からもたらされるプラス効果と今回の大型の不正汚職事件からもた らされるマイナス効果がかなり熱を帯びながら、決選投票の段階まで熱っぽく論争されて行って、やっと大統領選挙の勝ち負けと言いますか、勝者と敗者が決ま るのではないか、と見ています。
この二つのプラスとマイナスの選挙効果を両天秤にかけて 見た場合、私にはどうもセーラ候補の方へ次第に傾いて行きそうに思えてならない、というのが本日の私の独断偏見に近い一番最後の結論であります。制限時間 をはるかにオーバーしての長い間のご清聴、まことに有難う御座いました。