6.アパートの工事事情、日本との違い
(1)地震
まず、両国の違いで一番大きなものは、やはり地震の有無です。日本では、大きな地震が起こるたびに技術の進歩も相まって建設基準法等の大幅な改正が実施されています。記憶に残るところでは、新潟県沖地震、宮城県沖地震、阪神淡路大震災が上げられます。
日本では今でも一戸建て住宅は木造が主流ですが、マンション等の集合住宅は鉄筋コンクリート造、または鉄骨鉄筋コンクリート造となっています。ブラジルのアパートも鉄筋コンクリート造です。ちなみにここでは鉄骨を使ったアパートはありません。理由は耐力的に不要なことと、コストが非常に高いためです。
同じ鉄筋コンクリートの建物でも、外壁と呼ばれる一番外側を囲っている壁は日本では鉄筋コンクリートです。これは法律で決められています。しかしながら、皆さん良くご覧になっているようにブラジルでは外壁は赤いレンガか、またはコンクリートブロックを積み上げて作っています。中に細い鉄筋が多少入っていますが、日本のように鉄筋コンクリートでは出来ていません。これでは震度4~5程度の地震がくれば外壁はかなり崩れ落ちるのではないかと感じています。
また、柱や梁のコンクリートの太さや、その中に埋め込まれた鉄筋の太さや本数も日本に比べブラジルの方がとても少なくて済みます。これも地震がないおかげです。そのために、為替レートとは関係なく建設コストは日本に比べ格段に安くなっています。
(写真:サンパウロでの工事現場における鉄筋組み立て状況)
先日パキスタン北部で起きた大地震でも多くの建物が壊れましたが、ニュースの映像を見る限りここブラジルの建物の作り方も、壊れたパキスタンの建物とあまり違いがないように見えました。仮にサンパウロで同じ規模の地震が起きれば、間違いなく同様の大きな被害が発生すると思われますが、多分そのような心配はないのでご安心ください。
(2)日照権
次に日照権の違いですが、日本では裁判所の判例が数多く出されていますので最近ではあまり社会問題視されていませんので、普段気にされていないと思いますが、建築許可を取るために役所へ提出する図面には冬至の時の建物の影を1時間毎に記入してあります。これにより建物が法律に合っていることを証明しなければなりません。
ところがブラジルでは日照権そのものがないため、これによるトラブルは発生しません。むしろ欧米系の文化が残っているためか、家具やカーペットを日焼けから守るためにそれほど室内奥深くまで太陽が差し込まない部屋の方が好まれているようです。
(3)建設工事
それでは次に建設工事に関する詳細についてお話したいと思います。いくつかの項目に分けてみましたので順を追って説明いたします。
1)工事手順
工事を進める手順は基本的に日本と同じですが、強いて違いを挙げれば窓本体を先に付けるか、後で付けるかということがあります。日本ではコンクリートの図面を製作する時に一緒に窓の大きさをミリ単位まで決めてしまい、製作もコンクリート工事を進める間に完了させてしまいます。そして、コンクリート工事が終わったフロアーから順次壁の仕上げ工事が始まる前に取り付けます。
ですから、日本では外壁のサッシが、ガラスのない状態で取り付けられている3~4階上でまだコンクリート工事をしている状態を目にすることが一般的です。
しかしながら、こちらでは先に窓周囲の壁の仕上げ工事を完成させてから最後に窓本体を取り付けます。なぜこのようにするかというと、誰も壁が図面の寸法通りに出来上がるとは信じていないためです。ですから、先に作ってしまい、いざ取り付け用と思ったらうまく入らない、ということを防ぐために壁が仕上がってから実際に窓の寸法を測定し、それから製作に掛かるわけです。
両者の長所と短所を比べてみますと、専門的な説明は省かせていただきますが、前者は雨漏りが少なく、というよりほとんどなく、後者は寸法の間違いが少ない反面時間的に非効率ということになります。
2)工程
時間に関する話題は建設工事の世界だけに限らないので皆様の方がよくその違いを理解されているだけではなく、大変なご苦労を経験しているのではないかと思いますので割愛させていただきます。
3)品質レベル
判りやすい比較例として私が良く挙げるものに物差しがあります。こちらブラジルではメートル法を採用していますので、長さの最小単位は1ミリメートルです。しかしながら、建設現場で実際に使用している最小単位は1センチではないかと思える時が数多くあります。
几帳面な日本人としては、精密機器で計測したような水平、直角が形に表れないと、『いい加減だ』、あるいは『品質が悪い』という評価に落ち着きます。
ところがブラジルでは(実はブラジルだけでなく日本以外の国ではといった方が当たっていますが)、『何か悪いところでもあるの』という声が周囲から聞こえてきます。実際1ミリが1センチになっても人間の生活には多くの場合、あまり支障がないのが本当です。家具などの工場製品で1ミリの違いは大きく感じますが、ログハウスを作る場合は1センチの誤差は当たり前と思います。
4)工事の安全
これも私が良く挙げる例えに交通事故があります。事故というものは、起こってしまったから事故であって、起こらなければどんなに危ない状況であっても事故とは呼びません。日本の製造業の方々は日常的にヒヤリハットの情報を元に、事故防止の方策を社内展開していると思いますが、ブラジルではヒヤリやハット感じる人が存在しないのではないかと思われます。
5)床、壁、天井、仕上げ
内装工事全般に言えることですが、日本で使用される材料の厚みは外国製品よりも0.1ミリ単位で薄くなっています。なぜそのようになっているかと申しますと、簡単にいって材料の節約です。資源の少ない日本は原材料を輸入して、それを効率よく加工してできるだけ多くの製品を輸出することで発展してきましたので、製品として目的に合う最低基準の厚みを探し出す技術に磨きがかかり、無駄を省いてきました。ですから、日本の内装材料はどちらかというと輸入品に比べ質量感に乏しく、多少貧弱に感じることもあります。ですから、欧米系の材料メーカーが中心のブラジルの材料は日本製よりも立派に見えるものが多いようです。
使われている仕上げ材料で大きく違いを感じているものは石とタイルです。日本に比べ安価なせいか、いろいろな場所に手軽に使われています。特に流し台や洗面化粧台のカウンターは、ほとんどが大理石や御影石でできていて日本人には豪華に感じられます。また、タイルも水周りの床や壁にふんだんに使われていて、清潔な空間を作り出しています。
また、建物の外壁以外の間仕切り壁ですが、ブラジルでは外壁同様レンガやコンクリートブロックのようなどちらかというと重い材料を使いますが、日本では地震対策も含め建物重量を軽くするためにプラスターボードを多く使っています。重い材料の方が遮音性能は良いのですが、改修工事のときの解体時には多くのごみが発生することになります。
先日宮城県仙台市の屋内プール場で地震のために天井が崩落する事故がありました。なぜ天井が落ちたかというと、下地の骨組みを作る時に決められていた振れ止めという部材を取り付けていなかった、とニュースで報じられていました。地震に対する補強としては壁の筋交いもそうですが、斜めの補強材の設置が有効です。先程ご説明した耐震という考え方です。
ところが、ここブラジルでは地震がありませんので振れ止めどころか、天井下地を吊っている材料も針金だけです。また、天井の水平性を保つことも難しく、メンテナンス等で天井の板を何回も開け閉めするとその内ガタガタになってしまいます。こちらに下地となる材料のサンプルを持ってきましたのでご覧ください。簡単に違いを説明いたします。(材料サンプルの説明割愛)
以上で日本とブラジルの建設工事に関わる違いの説明を終わりにさせていただきますが、全ての面で地震の有無の影響が多少なりとも関係しているとご理解いただければ宜しいかと思います。どうもありがとうございました。