先週、テメル大統領がペトロブラス汚職捜査で勾留中の前下院議長エドゥアルド・クーニャ被告への黙秘に対する支払いを承認する様子を密かに録音したテープを大手食肉加工会社JBS社の幹部2人が最高裁判所に提出したとの「O Globo」紙の報道を受けて、テメル大統領に対する弾劾寸前まで政界が混乱していた。
しかしJBSオーナーのジョエズレイ・バチスタ氏が行った司法取引証言で、今年3月に大統領と面会した際に秘密裏に録音されたものが、テメル大統領が不正を容認するともとれる不自然な発言になっている点などが問題になって、益々政治混乱につながっている。
テメル大統領は20日午後の緊急声明の発表で、「JBSのバチスタ兄弟の完全犯罪に陥った」と激怒。数知れない多数の大物政治家との汚職問題の中心人物であるジョエズレイ・バチスタ氏は、司法取引供述を済ませた直後に米国へ家族と移動して身の危険をかわしている。
昨日のJBS社の株価は、31.34%下落して時価総額75億レアルは瞬時にして雲散霧消。JBS社が10年前に新規株式公開した時の株価は1株当たり6.29レアルであったが、昨日は5.98レアルで上場以来最低の株価に下落している。
Economatica社の調査によると、昨日のJBS社株価31.34%の下落幅は、リーマンブラザース銀行破綻をきっかけとした世界金融危機発生の2008年以降では、最大の下落幅を記録している。
石油・天然ガスや鉄鉱石関連事業で頭角を現し2011年のフォーブス誌の資産家ランキングで世界7位まで上り詰めた実業家エイケ・バチスタ氏所有のOGX社破産申請時は一時40%近くまで下落。またサジア社とペルジゴン両社の合併時も35.5%下落した。
しかし金融市場のアナリストは、JBS社の株価は大幅に下落しているものの今後の同社株価の動向が不透明なために、売り買いしないことを推奨しているが、商業銀行のクレジットカット並びに消費者のJBS社商品離れは避けられないと予想している。
JBS社の各種ブランド製品を販売している小売大手のフランス資本カールフール社は、「今現在JBS社による録音不正判定が確定していないために、司法の判決を見守っている」とコメントしている。
またポン・デ・アスーカルグループも「JBS社による汚職関連不正問題は司法の判断を待たなければならないが、今後はサプライヤーとの契約事項に沿って処理する」とコメントしている。
『Operação Carne Fraca』(規格外混入食肉作戦)で発覚した食肉偽造事件では、サジア並びにペルジゴンの有名ブランド製品を擁するBrasil Foods (BRF)社、FriboiやSearaの有名ブランド製品を擁するJBS社の食肉工場を含む3工場は操業停止処分となって不買運動が発生しており、ウォルマート社では、消費者の反応をモニタリングしていくとコメントしている。
J&F Investimentos社は、グループ傘下JBS社の株価は不正疑惑で大幅に下落しているものの、JBS社の事業は計画通りに進んでおり、運転資金などのファイナンス状況も問題ないと強調している。
JBS社主であるバチスタ兄弟の司法取引である報奨付供述で、レアル通貨に対するドル為替の暴騰の一方でサンパウロ平均株価(Ibovespa)の暴落、またブラジル証券取引委員会(CVM)並びに検察庁(MP)は、JBS社のドル先物取引と株式売買におけるインサイダー取引を含む不正取引疑惑で捜査を開始したと発表ことなどの要因で、米国の格付け会社がJBS社の格付け見直しを行った。
昨日の格付け会社ムーディーズはJBS社の格付けを「Ba2」から「Ba3」に格下げ。またFitch社も「BB+」から「BB」に格下げして、今後の商業銀行からのクレジット承認が一段と厳しくなっている。
JBS社は1953年にゴイアス州アナポリス市にバチスタ兄弟の父親ジョゼ・バチスタ・ソブリーニョ氏が店舗名「Casa de Carne Mineira」として開店、1957年から首都建設が始まったブラジリア市の工事現場に対する食肉卸業を開始した。
19670年にゴイアス州フォルモーザ市で初めての屠殺工場を買収してFriboiブランドを立ち上げた。1993年にゴイアス州アナポリス市に1日当たり1,000頭の屠殺処理工場を建設。また1996年からヨーロッパ市場に牛肉輸出開始した。
JBS社は2007年にサンパウロ証券取引所に上場、米国並びにオーストラリアでSwiftを14億ドルで買収してFriboi社からJBS社に改名して世界トップの食肉メーカーとなった。
2008年には米国のSmithfield社を5億6,500万ドルで買収、オーストラリアの Tasman社を1億5,000万ドルで買収。2012年にホールディング会社J&F Investimentos社を設立。また紙・パルプメーカーや洗剤メーカーを買収。2013年には競合社のSeara社を買収して鶏肉や豚肉生産部門を拡大している。
また2015年にはオーストラリア資本Samallgoods並びにヨーロッパの Moy Park社を15億ドルで買収、また米国資本の Cargaillの豚肉部門も買収していた。
2017年には、JBS社は『Operação Carne Fraca』(規格外混入食肉作戦)で発覚した食肉偽造事件への関与、社会経済開発銀行(BNDES)が食肉大手JBS社に対し、81億レアルの不正融資疑惑など次々と不正発覚で、JBS社への信用が益々下落していた。
2007年の JBS社の売上は141億レアルであったが、2016年末には1,704億レアルを10倍以上増加、世界20カ国で300カ所以上の屠殺工場には23万5,000人の従業員を擁している。
しかし今後のJBS社の行方は全く不透明で、石油・天然ガスや鉄鉱石関連事業で頭角を現し2011年のフォーブス誌の資産家ランキングで世界7位まで上り詰めた実業家エイケ・バチスタ氏同様に、「栄枯盛衰は世の習い」となるか注目されている。(2017年5月23日付けエスタード紙)