危機管理セミナー(ベネズエラ)の概要
本セミナー概要は、CR社が平成17年9月、ベネズエラにおいて実施した危機管理セミナーの内容をまとめたものです。
したがいまして、あくまでベネズエラ向けの内容となっておりますので、当地の事情とは異なるところもありますが、基本的な予防対策等有益な点も多々ありますので、参考にして頂ければと思います。
1 講師
(1)コントロール・リスクス・グループ(日本法人)代表取締役社長 山崎 正晴 氏
(2)同社ボゴタ所長 TIM STEAR 氏(イギリス海兵隊出身)
※ コントロール・リスクス・グループ??? 1975年英国の治安・情報機関等出身者により設立されて以来、世界20カ所の拠点にて企業、政府機関等に対する犯罪・テロ・自然災害等さまざまなリスク の対応策の策定並びに事件・事故発生時の対応支援を行うリスクマネジメントコンサルト会社
2 セミナー概要
(1)ベネズエラの治安状況
○ ベネズエラの治安状況はここ数年で急速に悪化し、殺人事件発生件数は1999年のほぼ倍増。2003年中10万人あたり44人が殺害されている。
○ テロ事件の発生はまれであるが、大規模な武装犯罪集団が存在する。
○ 農村部での犯罪発生率は低いが、コロンビア国境地域は高リスク地域である。
(2)誘拐事件
ア 誘拐多発国(2004年)
①コロンビア ②メキシコ ③イラク ④ブラジル ⑤ベネズエラ ⑥アルゼンチン ⑦バングラデシュ ⑧ロシア ⑨インド ⑩パキスタン
イ ベネズエラにおける誘拐事件
○ 年々増加しており、2003年は2000年の約3倍の発生(68件→267件)
○ コロンビア国境地域で発生する事件の大半はコロンビアのゲリラ・グループによるものと思われる。
○ カラカスでは地元犯罪組織が企業幹部や実業家を狙う事件が多く、短時間誘拐も増加している。
○ 誘拐の主な標的は、農場主、実業家、企業幹部、石油関連企業社員や外国人(コロンビア国境地域)等
○ 被害者の79%が身代金を支払い、8%が救出、5%が脱出、8%が監禁中に死亡。
○ 特別に日本人が狙われている訳ではないが、特別に狙われない理由もない。 もし日本人を被害者とする誘拐が成功したら、連続して狙われる可能性が高いため、もし日本人の被害が発生したら注意が必要である。
○ 誘拐事件のタイプ
・ 長期型誘拐(6~10ヶ月)? ?~通常は国境地域において犯罪組織やコロンビアゲリラ集団が敢行
・ 短期型誘拐(数週間) ~主に都市部で発生。らちの直後に身代金要求がなされ、交渉過程で大幅減額。
・ 最終支払額は1億 ~2億ボリバル(US$46,500~US$93,000)
・ 短時間誘拐(数時間) ~カラカスで頻繁に発生
(3)誘拐予防対策
誘拐予防対策10項目 |
① 誘拐リスクの存在を常に意識(周囲の変化に注意) ② できるだけ目立たない(自宅、服装、車、行動) ③ 立場上、目立たざるを得ない場合は、それに見合った安全策をとる ④ 定型パターンの行動をさける(時間、ルート、車両等) ⑤ 自分に関する情報(身分、行動予定等)の秘匿 ⑥ 自宅の安全対策(建物、駐車場、監視と不審者対応) ⑦ 職場の安全対策(建物、駐車場、監視と不審者対応) ⑧ 移動中の安全対策(車種、使用、搭載物、運転訓練) ⑨ 誘拐発生時の対応体制確立(本人、家庭、職場) ⑩ 本人及び関係者(家族、メイド、運転手等)の教育訓練
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ア なぜ被害に遭うのか(PARTⅠ)~行きずり型犯行の情報源
○ 高級車 ~立場上乗らざるを得ない人は危険性を認識し、より高度な防犯対策を
○ 華美な装飾品 ~日本人は海外で目立つ。特に女性はブランド品を身につける人が多く危険
○ 車内の外部から見える位置に荷物を置く。
○ クラッシャー、身分証をつけたまま外出する。
○ 所持品から身分がわかる。強盗→誘拐(犯行が移行する)
○ 名刺、コンピューター、電子手帳、手帳、仕事関係の書類、携帯電話、クレジットカード、車のナンバープレート等
イ なぜ被害に遭うのか(PARTⅡ)~計画型犯行の情報源
○ 豪邸、高級車
○ 履歴、パーティの写真等が雑誌、新聞に掲載される過去にメキシコの日本料理屋が雑誌に掲載された1週間後に誘拐された。
○ 電話帳に載せる ~誘拐の他、恐喝、詐欺などの被害にも遭いやすい。
※ 緊急連絡網は電話の横に貼らない→メイド、修理業者等が見る
○ 企業等の行動予定表(ホワイトボード、黒板等) ~来客、配達人等から情報が漏れ、待ち伏せされる。
○ 秘書、電話交換手からの情報漏洩 ~行動予定を把握されてしまわないよう、指導、教養が必要
○ メイド、警備員、従業員(個人契約) ~雇用前の身元調査を行う。他に情報を漏らさないよう指導、教養が必要常に丁寧に接し、よい関係を構築する。
○ 運転手 ~行き先、ルートは乗車してから伝える。行動予定をあらかじめ伝えない。
※ 人から恨みを買わない!
・ 海外で生活する場合は、その国の人に守ってもらっているという考え方が大事。
~警察、警備人、鍵の業者、隣人、すべての人に守られている。
・ (警備を雇う)金がなければ愛嬌だけでも何とかなる(皆と仲良くなる。犯罪者も友達は襲いにくい。)
ウ 兆候の見落とし
○ 無言電話、間違い電話 ~在宅か、留守かの確認をしている場合がある。
(留守電にしておき、いっさい電話に出ないという防犯対策もある)
○ 自宅、勤務先周辺の通常とは異なる状況 ~不審車両、屋台、靴磨き、廃品回収等 → 下見かもしれない
○ 通勤、外出時の尾行
尾行に気づいたときなど、いざという時に逃げ込む場所をあらかじめ考えておく(通勤経路、空港からの経路等)
エ 襲撃されやすい状況
○ 窓を開放したままの乗車
○ レストランから出てくるところ(飲酒している、車を待つ、など隙が多い。)
○ 運転手が運転席から離れてドアを開ける。運転手が運転席から降りて雇い主のために後部座席のドアを開ける光景を良く目にするが、最も危険な行為である。
ドアは自分で開けるのが基本である。
○ 駐車場の出入り口
○ ATMでの現金引き出し ~銀行や路上は危険。ショッピングセンター、ビル内の方が安全
○ 周辺に注意を払わず、ボーっとしている。
オ 多発時間帯
○ 計画犯行型 月曜、火曜(7:00~10:00) 80%
水曜、金曜(定期的行動中) 15%
週末(定期的行動中) 5%
※週末になればなるほど、先週から決まっていたスケジュールが変更される可能性が高いため、週初めが狙われやすい。
○ 行きずり犯行型 木曜、金曜、給料日(22:00~24:00)
※ 短時間誘拐の場合24:00を過ぎればもう一度現金引き出しができるため。
カ 事件発生場所
自宅周辺、職場周辺が最も多い
車両乗車中は、信号、交差点、工事現場等スピードを落とさなければならない場所で襲撃される。
(4)誘拐事件発生後の対応
ア 襲撃された場合
○ 大声で叫ばない
○ 抵抗しない
○ 急な動きをしない
○ 犯人の指示に従う
イ 現地での初期対応
○ 行方不明者の捜索
○ 家族への連絡
○ 警察への連絡(その是非、得失、方法を含み要検討)
○ 日本への緊急報告
○ 犯人への対応(誰が、どのように)
○ 情報管理(外部に漏れれば人質の生命に関わる)
ウ 対応基本方針(事前決定事項)
○ 会社がどのような形で事件に関与すべきか
○ 被害者が日本人駐在員以外だった場合の対応
○ 現地治安期間に通報すべきか(する場合、その時期と方法は)
○ 対応主体は、日本(本社等)するか現地拠点とするか
○ 犯人からの要求にそのまま応ずるか、拒絶するか、交渉するか
○ 要求が金銭以外(反政府組織の宣伝広告の掲載等)だったらどうするか
○ 身代金の支払額の決定方法は
○ 身代金の支払時期は
○ 身代金の支払いが現地法で禁じられている場合は
○ 身代金の支払いに対し現地治安当局が難色を示した場合は
○ 事件情報を被害者家族にいつ、どこまで伝えるか
○ マスコミに事件に関する情報をいつ、どこまで伝えるか
○ 会社(団体)としての最終意志決定を誰が行うのか
エ 犯人との対応に関する基本的留意点
○ 交渉する用意があることを示す
○ 人質の取り扱いに気を遣うよう犯人を説得
○ 高額の身代金支払いの期待を抱かせないようにする
○ 要求額に対しては抵抗を示し、金額を引き下げさせる
○ 犯人側の目標を正しく認識する(金額と支払時期)
○ こちらかのら提示額は、理由をつけて段階的に増額
○ 交渉を継続させる
○ 最終合意額を匂わせる
○ 事件の長期化を防ぎ、短期誘拐を長期誘拐にしないようにする
オ 犯人との交渉役
○ 信頼のおける者
○ 犯人と同じ言語での会話能力のある者
○ 独断で行動しない者
○ 感情的にならず冷静に話のできる者
○ 被害者との関係が近すぎない者(家族は望ましくない)
○ 事件解決まで長期間交渉窓口業務に専念できる者
カ 身代金はなぜ値切るべきなのか
○ 再発、二重請求防止(脅せば簡単に金を出す相手と思われないため)
○ 現地社会に対する悪影響を最小限にくい止めることにより、現地政府の理解を得やすくするため。
○ 金銭的損失を最小限にするため
キ マスコミに話してはならないこと
○ 身代金要求があったこと
○ 身代金を支払ったこと
○ 現地警察への不満
○ 犯人側への共感や同情
○ 人質や家族のプライバシーに関わること
ク 短期型事件対応における留意点
○ 事件の進展速度が速いため、日本側(本社等)が本格的に関与する時間的余裕がない場合が多い。
○ 現地の対応チームへの事前の権限委譲が必要
○ 直ちに専門家の助言が必要
(5)人質となった場合の心得
○ 監禁場所までの時間、方位、距離を推定する
○ 誘拐犯について有用な情報を記憶する
○ 誘拐犯の尊敬を得る
○ 与えられる食物はすべて受け取る
○ 薬品(睡眠薬など)の投与を恐れない
○ 持病や必要な処方薬など、健康上の問題があれば誘拐犯に伝える
○ 精神的強靱さを維持する
○ 環境が許す限り身体を清潔に保つ
○ 長期間の監禁を覚悟する(早期解放を期待しない)
○ 誘拐犯の招待に気づいたそぶりを見せない
○ 抵抗したり突然動き出したりしない
○ (新聞など)物品を要求する
○ 気晴らしを考える
○ 自分の重要性や車内での地位をなるべく軽く見せる
○ 論争の的になるような話題は避ける
○ 生存計画を考える(食事、睡眠、身体を清潔に保つ、運動など)
○ 家族や会社が自分の存在を忘れてしまっているという犯人の言葉に耳を貸さない
○ 相当の確実性がない限り、脱走を試みない
○ 自分で犯人と交渉しない
(6)恐喝事件対応
ア ベネズエラにおける恐喝の特徴
○ ゲリラ組織による恐喝事件がコロンビア国境地域で頻発している
○ 農場主等は誘拐の標的とならないよう、バクナ(スペイン語のワクチン)と呼ばれる「戦争税」を支払っているが、これも恐喝の一種といえる。
イ 恐喝事件対応のポイント
○ 恐喝犯の言っていること正確に記録する(可能であれば録音する)
○ パニック行動をとらない(緊急国外脱出、金の支払いなど)
※ 恐喝犯は脅しを直ちに実行に移すことはない
※ 恐喝犯の多く(すべてではない)は、実行の意思や能力を持たない
○ 限られた関係者への連絡と情報拡散防止
○ 危害を加えられる可能性のある人や施設の安全体制強化
○ 直ちに専門家の助言を得て驚異の評価を行う
○ 原則として(例外もある)犯人側との対話は継続
※ 現在ブラジル(サンパウロ)で多発している電話による恐喝については、地元警察によれば、「できるだけ話さない(電話に出ない)」のが基本対策とのことである。
○ これ以降は、専門家の助言に基づく対策を実行
【 参考 】
海外における邦人死亡者原因別統計
海外においては、犯罪被害で死亡する人はテロと併せても5.1%にしかならない。死因の1位は病死、2位以下は事故がほとんどである。常に防犯対策犯罪被害に遭うことは重要であるが、犯罪対策ばかりを気に病みすぎて病気になった人も
実際にいるので気をつけよう、ということ
① 病気51.5% ② 交通事故12.5% ③ レジャー事故9.3% ④ 自殺9.6% ⑤ その他事故5.1%
⑥ その他5.1% ⑦ 犯罪4% ⑧ 飛行機事故1.5% ⑨ テロ1.1% ⑩ 災害0.3% ⑪ 戦闘・暴動0.0%