事業入札への関心の薄さが高速鉄道(TAV)事業入札を延期する最大の理由であるが、この判断により連邦政府は、都市交通事情の改善に向けて資金を優先的に分配する見通しである。
公共支出の抑制に対する圧力に加え、事業入札に関心を示しているコンソーシアムが1社という状況から、ジウマ・ロウセフ大統領は、カンピーナス市とサンパウロ市、リオデジャネイロ市を結ぶTAV事業入札を延期する準備に着手した。ジウマ大統領は6日夜、大統領府執務室において閣僚らを集めて協議し、もし事業入札に対して複数の企業を呼び込むことができなかった場合、9月に予定されるTAV事業入札を実施しないと伝えた。
政治・経済面で課題に直面していることで、ジウマ大統領は、6月に各地で発生したデモの発端になった大都市のモーダル事情の改善に投資することが、不足気味の予算から高速鉄道に資金を投入するよりも得策だと受け止めている。
TAV事業入札を延期することにより、経済防衛行政審議会(Cade)が進める地下鉄カルテルに関する捜査の動向に配慮する必要もなくなる。サンパウロ州でマリオ・コーヴァス知事時代とジェラルド・アルキミン州知事時代、ジョゼー・セーラ州知事時代(いずれもブラジル民主社会党=PSDB)に地下鉄事業入札と車両保守事業入札でカルテルを組織したとして捜査を受けている企業は、いずれも、TAV事業入札に関心を示している。
エスタード紙が取材で入手した情報によると、スペインのCAFは、現時点で応札する意思を示している。だが、他社はいずれも、参加を断念した。他方、カルテルを告発したシーメンスは、コンソーシアムを組織するための時間が必要だとして、事業入札の延期を求めている。
連邦政府内の関係者の多くは、大衆が都市交通の改善を求める現在の状況は、347億レアルの投資という「大規模」な事業を推進するには不適当と受け止めている。
6日の協議でジウマ大統領は、現時点でバス高速輸送システム(BRT)と統合ターミナルへの投資を優先すると発言した。なお、大統領は7月、サンパウロ市のフェルナンド・アダジ市長と都市モーダルのための80億レアルの包括政策を発表したばかり。
ジウマ大統領が召集した協議には、セーザル・ボルジェス運輸大臣とロジスティクス企画公社(EPL)のベルナルド・フィゲイレード総裁、ギド・マンテガ財務大臣、ミリアン・ベルキオル企画大臣、グレイジ・ホフマン官房長官が出席した。
リスク要因。
ジウマ大統領は、もし2014年に再選を果たした場合、第2次政権にTAV事業を先送りする可能性がある。ただ、景気の先行きが不透明なことも、大統領の判断を難しくしている。市場で一般的な不満は、TAVがリスクの大きく、かつ収益率の低いプロジェクトだということである。企業の関心が薄れたその他の要因には、大規模な出資に応じるブラジル側の経営パートナーの不在だ。
しかも悪いことに、連邦政府はこの事業の内部収益率(IRR)を7%に固定した。他方、9月に事業入札が実施される高速道路のIRRは7.22%が確保されている。控えめにではあるが、この問題に関して政府内部でも意見が分かれていることを 複数の大臣が明らかにしている。
カルテルを組織した企業の手に、ジウマ政権の象徴的なプロジェクトをゆだねることに対するリスクについても、大統領府執務室は懸念している。だが、高速鉄道の技術を保有する企業は一部に限られている。このため、PSDB州政下で発生したような、関心を持つ企業が複数のプロジェクトに「相乗り」することや申し合わせは、これまでも想定されていた。
いずれにせよ、Cadeが捜査するカルテルは、技術的な見地からは事業入札に対する問題にはならないと受け止められている。(2013年8月7日付けエスタード紙)